リトル・シングス

アメリカ 2021
監督、脚本 ジョン・リー・ハンコック

シリアルキラーによる連続殺人を捜査する、老保安官とやり手な殺人課の刑事を描いたサスペンス。

バディものなのかな?と最初は思ったんですけど、二人の間の微妙な距離感及び立場の違いがあって、さしずめ共同戦線をはってる、といった按配で物語は進行。

老保安官は昔自分が担当した事件を今回の凶行に重ね合わせているみたいなんですけど、それが作品のテーマにも関わってくる構造です。

ビデオスルーな上、見た人の評価があまり芳しくないのはそのあたりに原因があるのかな、と思ったりもしますが、そのことに関しては後述するとして。

ストーリーは思いのほか落ち着き払って重厚。

テンポよくエキセントリックに事件や犯人を演出していくのではなく、じっくりと少しづつ核心に迫っていくパターンの映画ですね。

複雑な人間関係や、ややこしい時系列が事件の背景に潜んでたりはしないので、理解しにくいってことはないんですけど、せっかちな人は「全然話が進まない!」としびれを切らすかも。

私に言わせればこの「じらす感じ」「登場人物の心の機微を丁寧に描いていく感じ」こそがミステリの醍醐味なんですけどね。

監督は相当上手だと思いますよ。

何気ないシーンを意味ありげにみせる手管も堂に入ってると思いますし、不可解さ、不気味さを助長する場面をタイミングよく適所に放り込んでくるスキルの高さも申し分ない。

さすがは脚本家あがりなだけはありますね。

ミステリ云々以前に、ドラマへ観客を引き込むのが巧みなんですよね。

これは主演を努めたデンゼル・ワシントンの演技力、存在感も大きく影響してるんでしょうけど。

つい最近、彼が主演したイコライザー(2014)って映画を見たんですけどね、もう本作と全然違いますしね。

なんて細やかな演技のできる人なんだろう、とほんと感心した。

振り幅がすごいわ、デンゼル。

今更アカデミー俳優に何を言ってるんだ、って話ですけどね。

反して、ボヘミアン・ラプソディー(2018)で一躍話題をかっさらった刑事役のラミ・マレックはまだまだこれからだな、って感じ。

いや、下手じゃないんですけどね、この人はいずれ「なにをやってもラミ・マレック」と言われるのでは・・・と少し思ったり。

デンゼルと双璧をなしていたのがカメレオン俳優のジャレッド・レトー。

いやもうマジでジャレッド・レトーがどの登場人物を演じてるのか、最初はわからなかった。

誰もここからスーサイド・スクワッド(2016)のジョーカーを想像したりはしないと思いますね。

できうることならデンゼルとジャレッドの絡みをもっとたくさん見たかったんですけど、まあこりゃしかたない。

で、肝心の結末なんですけど、おそらく「つまらない」と言う人が多いのは、結局犯人は誰だったのか?がはっきり明かされてない点に起因してるんだろうなあ、と思います。

見終わってようやくわかるんですけどね、犯人探しのサスペンスじゃないんですよね、この映画。

サスペンスだと思わせておきながら、全く別の着地点が最後には用意されてて。

私なんかは「これ、警察官の倫理観、道徳観念を問う物語じゃん!」と思った。

見終わってから改めて振り返ると、老保安官の行動が全く違う意味を持つものに見えてくるから厄介。

正義感の強い人なんかは、どいつもこいつもクソばかり!と吐き捨ててしまうかも。

ただね、そう選択せざるを得なかった追い詰められた気持ち、心の闇を理解できなくもない、と思う部分もあって。

このどうにもならない袋小路な感触は、なんかもう呪いだな、と感じたりも。

序盤における刑事課のボスの忌々しげな一言が、最後になってこれほど響いてくる映画も珍しいと思います。

この内容で、結局「犯人は誰だったのか?」を示唆するシーンを物語に潜り込ませることができていたら全く評価は変わっていたように思うんですけど、並立させるのは難しかったのか、そういうことがやりたかったわけじゃなかったのか、うーん、判断に苦しむところですね。

後味の悪さが舌に苦い一作ですが、質は高いと思います。

もう少しやりようがあったのかもしれないですけど、私はひきこまれましたね。

ちなみにこの作品、レンタル専用で現在はリリースされてます。

2021/11/3からデジタル配信されるみたいなんでサブスクオンリーな方はそれまでお待ちを。

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