哭悲 THE SADNESS

台湾 2021
監督、脚本 ロブ・ジャバス

未知のウイルスが蔓延し、人々が凶暴化した台湾で、一人市中を逃げ惑うヒロインを描いたゾンビパニックホラー。

ゾンビホラーと書いておきながら早々と前言を翻すようですが、本作、厳密に言うとゾンビものではなく、パンデミックものと捉えるのが正解。

凶暴化した人たちはウイルスに感染しておかしくなってるだけで、ちゃんと生きてるんですね。

大脳辺縁系が侵されて欲望の制御が効かなくなってる、という設定。

なのでめっちゃ元気。

なんなら普段以上に元気。

なんせ良識やモラルといったストッパーが効かないわけだから。

病気だからいつかは止まるんでしょうげど、一度発症すると酒癖の悪い酔っぱらいが調子に乗って暴れるのにも似て人格変わって大暴れ。

だからといってこぞって人肉踊り食いするか?とは思うんですけど、そこはお約束か。

私は古いゾンビ映画のファンなんで、ゾンビが走るとか許せないタチなんですけど、ま、そういう設定なら仕方がないかな、と納得出来なくはない。

物語の基礎工事がちゃんとしてるのは好ましい事ですし。

ただ、エグすぎて見てられないとか、エログロの極みとかいった前評判はちょっと大げさですね。

ゾンビ映画の嚆矢たるロメロが手掛けた死霊のえじき(1985)がとうにこれぐらいのことはやってますし、なんならその上をいく。

エグいってだけの話なら、2000年以降のフレンチホラー(モーリー&バスティロとかパスカル・ロジェとか)のほうがよっぽどエグい。

なんだろ、最近のゾンビ映画しか見たことがない人があれこれ噂をふりまいてるんですかね?

あと、残虐描写云々以前にストーリーがありきたり、ってのが結構頭の痛い点で。

もうこの手のシナリオって、記憶をまさぐるまでもなく大昔から大量に溢れかえってて、腐臭を放ってると思うんですよ。

申し訳ないけど1ミリの新鮮味もない。

その割には伏線にも布石にもなってない、余計なシーンが妙に多かったり。

100分のランタイムでなんでこんな無駄なことをする?と。

後半で登場するウイルスの研究者でもある医師が、やたら頭悪いサイコパスなのも気になった。

周りが狂ってる奴らだらけなのに、さらにサイコパス用意するって詰め込みすぎだと思うんですよね。

どうしてもこれをやりたいなら、最後のオチでどんでん返し気味に真相を明かすとか、ある程度メリハリをつけないとせっかくの非日常なシチュエーションがブレて見えてくる。

最後にヒロインと恋人があれこれやってるのをクライマックスにしてる場合じゃなくて。

途中で登場した警備員をもうちょっと上手に使えんものか、とも思いましたね。

実に香ばしいキャラだったんですよ、もったいない。

終わってみれば、初期設定の違いはあれど、経年の風雪にさらされて塵芥と化していく凡百のゾンビ映画とあんまり変わらんな、という感想を抱く結果に。

アジア圏のゾンビ映画って、キョンシーを省けばあんまり数ないと思うんで物珍しさを感じはしましたが、これならアイアムアヒーロー(2015)の方がよっぽど良い出来だと思いますね。

うーん、評判倒れでは・・・と。

しかし台湾映画って80年代のものしか見たことないけど、今はこういう方向に振り切っちゃってるのか?わからん。

タイトルとURLをコピーしました