ヒンターラント

オーストリア/ルクセンブルグ 2021
監督 ステファン・ルツォビツキー
脚本 ロバート・ブッフシュベンター、ハンノ・ピンター、ステファン・ルツォビツキー

第一次世界大戦後の混乱冷めやらぬオーストリアにて、連続殺人鬼を追う元刑事の退役軍人を描いたサスペンス。

何と言っても印象的なのは、えっ、これ全部CGなの?と思わず目を凝らしてしまう背景美術でしょうね。

ブルーバック撮影とやらで(どういう撮影法なのかよくしらない)撮られてるみたいなんですけど、単に彩色するだけではなく、細かい部分でディフォルメ、修正、焦点の調節がなされてることは確かで。

パッと見た感じ、実在の役者たちがアニメの世界に紛れ込んでしまったみたいに見えるんですよね。

違和感が先立つか、目新しく感じるかは人それぞれでしょうけど、私の場合、良質な異世界ファンタジーに触れているかのような気分になった。

生々しい戦争の爪痕が残る都市の風景、というよりは、別世界の荒廃した町並みに放り込まれた登場人物たちを追っているような。

戦後動乱期を素材として描く上でこの手法がリアリティに欠けると批判を受けそうな気がしなくもないんですが、そもそも第一次大戦後のオーストリアをその目で見た人なんてもう全員死んじゃってるわけだし、当時の景観が現在も残ってるはずがないんだから、なら、いっそのこと全部作っちゃおう、とする発想は、私、間違ってはないと思うんですね。

青を基調とした重々しい色合いは、戦後の閉塞した空気を感じさせるし、少なくとも時代考証がなってない、などとツッコみたくともツッコミようがないわけだから(ひょっとして策略家なのか?)。

およそ「100年前」を現在の技術で再現する上で、これはこれでありだな、と思うんですよ。

一時期のNETFLIXやノーランじゃないんだから、資金も限られてるわけですしね。

また、古い時代の物語の映像化と言う観点から見ても利口な気がするんですね。

他に考えられる手段として、リアリズムを重視するならモノクロにして異端の鳥(2019)みたいな感じに仕上げるというやり方もあったかと思いますが、それをやっちゃうと多分ね、客層はすごく狭まると思いますし。

ただでさえ重苦しい内容なのに、その上白黒でざらついた映像、って映画マニアしか見ねえ、って話で。

拭えぬ戦争の傷痕&連続殺人という暗い題材を広くアピールする上で、別世界感満載の映像づくりは明らかに間口を広げてると思いますね。

実際、シナリオだけに着目すると、ヒッチコックやフリッツ・ラングのサスペンスにも近い雰囲気、様相だったりするんですが、思った以上に古臭さが先に立つことがない。

戦後のリアルより、ゼロから作られた世界の創造性のほうが馴染みやすい、ということなんでしょうね、きっと(私みたいなオッサンですら、そう感じる傾向がありますし)。

ま、なぜこの内容で、第一次大戦後のオーストリアを舞台にしたんだろう?という疑問は少し残るんですが(なにか理由があるんでしょうけど)どんでん返し系のサスペンスとしての完成度もそれなりに高くてですね。

特にクライマックスで一度手綱をゆるめるというか、あれ?この人だれ?なんか見落としてか?と観客に混乱を覚えさせる弛緩の演出は見事。

えー、これはスッキリしないわー、と意気消沈してたらその数分後に強烈な揺り戻しがありますからね、うわっ、そういうことだったのかあ!と膝痛打ですよ。

エンディングをあの場面でカットするセンスも素晴らしい。

異世界ファンタジー(サスペンス)みたいなパッケージのくせに、きっちり大人の映画なんですよね。

監督の前作、ヒトラーの贋札(2007)は見てないんですが、監督の高い才能を感じさせる一作でした。

若い世代であっても意外に楽しめるんではなかろうか?と思えるのがこの映画の強みかと。

オススメ。

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