韓国 2019
監督 ポン・ジュノ
脚本 ポン・ジュノ、ハン・チンウォン
半地下に暮らす貧乏一家が、詐欺師まがいの弁舌で裕福に暮らす社長一家に取り入り、いつしかちゃっかり全員が使用人に収まってしまう「成り代わり」を描いたブラックコメディ。
ああ、なんかこういう話って70年代ぐらいからあったなあ、と。
大抵の結末は陰惨で痛ましい感じでしたけどね。
近年においても似たような事件が国内であったような。
最終的には寄生者が宿主をマインドコントロールして主従逆転、待ち受けるのは一家崩壊の地獄絵図、みたいな。
正直、あんまりそういう実話モドキな映画は見たくないな、と。
その手のドメスティックなネタって、見た後、絶対しんどくなるのがわかりきってますから。
でもポン・ジュノがそんな園子温みたいなことやるかな?(母なる証明という前科はあるにせよ)と幾分懐疑的な気持ちで見てたら、想像してた以上に飄々とコミカルで一安心。
基本、貧乏一家の4人、所詮は小悪党でいい人ばかりです。
あんまり正義感とかモラルとか持ち合わせていそうにはないけど、どこか性善性が透けて見えるんですよね。
こりゃとてもじゃないけど大きなことはできそうにないわ、と脱力してしまいそうになる感じ。
作品のトーンはほえる犬は噛まない(2000)やオクジャ/okja(2017)に近いかな。
そのドタバタぶりを見てるだけで安心して笑ってられる、というか。
特に久しぶりに見たソン・ガンホのすっとぼけぶりには破顔してしまいましたね。
この人、こういう役もこなすんだ、と。
あんまり熱心に追ってるわけではないんで、詳しい方からすれば、今更何を言ってるんだ・・・って話かもしれませんが。
個人的にはエンドロールまで「バレそうでバレないスリル」を笑いに転化した内容で突っ走ってくれてもよかったんですけどね、一筋縄でいかないからこそアカデミーも振り向いたわけで。
終盤に予想外の展開が待ち受けてます。
また同時に、ああ、これこそがポン・ジュノだなあ、とひどく納得したり。
アメリカで多くの観客を動員した理由がなんとなくわかりますね。
描かれているのは分断であり、格差社会の闇。
仰天だったのは、所詮は小悪党に過ぎない善人が、何を許せて、何が許せなかったのかをわずか数分のシークエンスで描いたパーティーのシーン。
もう、いきなりです。
ついさっきまでふざけてたのに、この落差ある作劇は何事か、ってなもの。
そして最後に男はどこへ向かったのか。
なんともアイロニカルでやるせない、としかいいようがないです。
またエンディングが意味深で。
価値観の転覆が起こったようにみせかけて、実際はこの先も何も変わらない、と暗示するようなオチになってるんですよね。
さんざん笑わせておきながら、最後の最後で白刃を脇差からギラリと抜いて観客を凍りつかせるような作品ですね。
監督らしい一作だと思います。
貧民街を独特な退廃美で切り取った大雨の夜のシーンが、私は印象に残りましたね。
しかしこの映画がアカデミー4部門受賞か・・・。
私が考えてる以上に世界は同じ問題に苦しみ、あえいでいるのかもしれません。
ちなみにあくまで私的な所感ですが、ポン・ジュノならこれぐらいやるだろう、という意味において、世間の狂騒と若干温度差があったりはしますね。
どちらかというと前作、オクジャ/okjaの方が題材そのものは興味深かった。
優れていない、ダメだ、ってことじゃないんですけどね。