アメリカ 2019
監督、脚本 トレイ・エドワード・シュルツ
いわゆる家族ドラマ。
普通の家族ドラマと違うのは、一家の長男がちょっとしたはずみで重大な犯罪を犯し、収監されてしまっていること。
監督の前作であるイット・カムズ・アット・ナイト(2017)を私はそれなりに評価してたんで、そこそこの期待でもって本作にも挑んだんですけど、ま、あえて結論から言うなら、どこにも着地してくれなかったし、どこにも行けなかった印象ですね。
少なくともジャケットの宣伝文句にある「一生に一度の傑作!」などというアオリは誇大であること、甚だしい。
これが一生に一度の傑作ならスピルバーグやヒッチコックはうかつに触れることすら許されぬ全知全能の神にも匹敵する、って話だ。
やはり最大の問題点は、前半で転落、後半で再生を描いているにも関わらず、前半の痛ましいストーリー展開が、後半に全くつながってない点にあるといっていいでしょうね。
前半の影響はゼロだ、とはいいません。
けれど、起こったことに対する深慮、長考を抜きにして、いきなり舞台を変え別の物語をあたかも癒やしであるかのように描写されてもですね、それはもう「長男のことは忘れてしまいましょう、仕方のないことだから」としか、とれないわけですよ。
いやいや、長男、あの若さで実刑くらって収監されちゃってるよ?いいの放置で?なんかあるでしょ、できることが?と思うわけですよ、私なんかは。
家族全員、当事者の気持ちに寄り添うことより、自分のことで右往左往ですから。
親父は「嫁が口聞いてくれない」って嘆いてるし、妹は兄のことより彼氏に夢中で、彼氏の死にかけた親に遠路はるばる会いに行ったりしてるし。
いやいや、その前に、あんたたち、もう一度長男としっかり向き合いなさいよ、って。
「家族」だと言うなら、決して悪意から犯罪を犯したわけではない長男と根気よく言葉をかわすこと、そしてどうして事件が起こってしまったのか、共に掘り下げることでしか先に進めないでしょ?と。
まるで不慮の事故に遭遇して長男を失ってしまったかのような素振りなんですね、両親も妹も。
恐ろしいドライさ、割り切りぶりだな、と。
おそらく監督自身にそんなつもりはなかったでしょうけどね、結果的にそうなっちゃってるから、シナリオが。
私はてっきり、後半の展開って、心無い嫌がらせに苦しむ家族の様子から始まって、それでもなお、絆を取り戻そうとする一家の立ち向かう姿を描いてくれるに違いない、と思ってた。
ひょっとしたら出所後ぐらいまで、長いスパンで追ってくれるかもしれないな、なんて。
時間が癒やしてくれました的な流れで良しとするなら、前半の緻密なドラマとか、全然必要ないわけですよ。
なにがやりたかったのかよくわからないし、表層的だとしか言いようがないですね。
なぜかやたらカメラワークに凝ってて、デ・パルマ調に被写体の周りを360度回転したり、やたら美しい風景や街並みを丁寧なカットで映像に織り込んでたりするんですが、はっきりいってあんまり意味なし。
そんなことより他にやることあるでしょうが、と。
おしゃれでハイセンスな青春映画(かなりビターだけど)を目指したのかもしれませんが、設計図面の段階で「工法がおかしい」と気づかぬまま完成に至っちゃった作品、という感じ。
うーん、気鋭のA24もスリラー/サスペンス以外はピンとこない作品、多い気がしますね。