アメリカ 2019
監督 ジェームズ・グレイ
脚本 ジェームズ・グレイ、イーサン・グロス
はるか太陽系の彼方へ、地球外生命体の探索を目的として旅立ったまま行方不明となった父親を、同じ宇宙飛行士を志した息子が探しに行く物語。
息子の向かう目的地は海王星近縁なんですけどね、これ、肉親の情とか、ヒューマニズムの精神でわざわざ宇宙船に乗り込むわけじゃないんです。
そもそも息子は遠の昔に親父は死んでる、と思ってた。
軍部が言うには、どうやら親父の乗ってる宇宙船が原因で大規模なサージ(大波電流)が生じてるようだと。
なんかやらかしてるんですね、親父。
それが遠く離れた地球にまで及んで、電子機器類に壊滅的なダメージを与えている、と。
止めてこい、ってなわけですな。
息子が抜擢されたのも、肉親だからというより、彼自身が何事にも動じない冷静な男だからという点が評価されたため。
どっちかというと、心のどこかに欠陥を抱えてる人間っぽいです、息子。
動じないというより、何事にも無感動なタイプとでもいうか。
宇宙飛行士にはもってこいの適性、と言われればそうなのかもしれませんが、親に対して抱く子供の複雑な感情が見えにくいキャラなんで、はて、これはどういう意図があってこのような設定にしたのだろう?と戸惑わされたりはします。
普通に考えりゃ「死んだと思ってた親父と16年ぶりに邂逅して、息子がはるか昔に忘れていた感情を蘇らせる」ってなパターンがセオリーかとは思うんですが、なにやらそういう感じでもない。
いや、息子の感情が高ぶったりとか、それらしい演出はあるんですけどね、なんだろ、全く「煽らない」んですよね。
劇的にはしませんよ、みたいな。
これは監督の作家性なのかもしれませんけど。
なので本来なら目頭直撃だろうと思われるシーンでも、ああ、そうなっちゃったのか、みたいな感じで至極冷静に見てられる。
エンディングもスッキリしない。
一連の出来事を経て、息子は何を感じ、どう変わったのかをあまり明確にしないんですよね。
なんとなく、そういうことなんだろうな、みたいな婉曲表現でとどめておく、みたいな。
宇宙が舞台なのに絵的な派手さにこだわってない、というのも大きかったと思います。
宇宙船や基地のデザイン、ガジェットが地味なんですよね。
おそらく、あえてそうしたんでしょうけど。
結果、なんだか延々薄暗くて閉鎖的なまま123分という状態でして。
いわゆるスペースオペラ的なスペクタクルを期待すると、間違いなく拍子抜け。
さて、これをどう評価するべきなのか、悩ましいところなんですけど、個人的にはもう少し振り幅があってもよかったよ、と思ったりはしました。
サスペンス風味だったりとか、アクション的な要素もあるとか。
カーチェイスもどきは少しあったけれどもさ。
海王星まで出かけておいてこれか?と思う人は絶対に一定数いるだろうな、と思うんですよね。
せめてもう少しミステリアスであればまた違ったか、とは思います。
なんせ海王星にはボイジャー2号しか到達してないんですから。
人類未到達の星をどう見せるか?みたいな点に重きをおいてないし、想像力を駆使することにも力を注いでないんで、見たこともない世界を可視化するSFの醍醐味があんまりないんですよね。
結局、テーマやストーリー性は地球から一歩も外に出てない、というのは辛辣すぎるでしょうか。
A24らしい、といえばそうなんですけどね。