2022 日本
監督、脚本 原田眞人
原作 深町秋生
殺人も厭わぬ潜入捜査官の、ヤクザ組織内での活躍を描いたクライムアクション。
で、この殺人も厭わぬ、ってのが最初に私が引っかかった部分でして。
主人公の兼高昭吾は元機動隊の警察官で。
親しくしていた女性が強盗に殺されたことで、復讐の鬼と化し、犯人を皆殺しにすることにすべてを注ぐ人生を選択し、潜伏するんですが、目的を達した暁に謎の男から「潜入捜査官をやれ」とスカウトされるんですね。
謎の男、どうやら国家秘密組織(警察の別機関?)に属しているようなんですけど、ヤクザ組織上層部の信頼を得るためにはなんでもやれ、と命じるんです。
兼高は、命令に忠実に振る舞い、あれとあれよと組織の凄腕殺し屋として一目置かれる存在にまで上り詰める。
これが序盤15分ほどでほぼすべて描かれるんですけど、いやちょっと待て、と。
ヤクザの殺し屋って、相当汚い仕事に手を染めなきゃなんないと思うんですが(簡単な出入りだったら鉄砲玉がやるだろうし)、組長の命じた仕事に、あなたが復讐にすべてを投げ出すきっかけとなった無辜の女を殺すような指示があったらどうするの?と私は思うわけです。
それでも仕事だから、と割り切れるような人物だったらそもそも警察官の職を捨ててまで個人で犯人を追ったりするようなことはなかっただろうし。
自分の信じる正義を貫いた人物が、なんで人を組織のためにバンバン殺せるの?と私は思うわけです。
兼高のキャラクター設定に最初から大きな矛盾を抱えることになるんですよね、この立場だと。
親しい女を殺したやつは許せないが、自分と関わりのないやつなら男女構わずバンバン殺しまっせ!ってな人物なのだとしたら、完全にサイコパス野郎ですからね。
そんな男に共感もできなければ同調できるはずもない。
身内は大事にするけど他は知らんっ、ってマフィアの流儀じゃん、と思うわけですよ。
それをね、心に傷を負った孤独な一匹狼風に描かれてもね、いやいやぶっ壊れたクソ野郎でしかないから、としか言えないわけで。
殺しを黙認する国家秘密組織ってのもなんだかなあ、どうなんだろうなあ、昔の漫画みたいだなあ、と思いましたし。
こういうのは「多少の法律無視は仕方ないけど殺しはなんとか回避しろ、組織が協力してそれらしく見せかける」ってやるから手に汗握るスリルが生まれるんであってね、なんでもやれ、だと兼高が潜入捜査官であり続ける意味すら喪失してしまうと思うんですよね。
大義がないんですよね。
全部が兼高に任されすぎ。
秘密組織の言う事を聞かなきゃいけない理由がどこにも見当たらない。
なので私なんかは「兼高、さっさと秘密組織を裏切ってヤクザ組織の頂点に上り詰めろ、いいバディもいるじゃん」ってな目線でしか見ることができなかった。
ちらちらいい人アピールがあったりするんですけど、もうウザいだけでね、そういう人間じゃない立ち位置で始まってるでしょうが、この物語は、ってなもの。
まあ、最後までのれなかったですね。
ヤクザ組織の親玉をMIYAVIが演じてる、ってのもどうなんだろ、って感じでしたし。
今どきのヤクザ像を意識した配役だったのかもしれませんが、ラストロックスターズでギター弾いてるのを最近見たばっかりだったしなあ。
しかもなんかうっすらとメイクしてるし、MIYAVI。
どんな武闘派ヤクザなんだよ、って話だ。
いや、MIYAVIはアクションも演技も良かったんでね、本人に一切責任はないと思うんですが、こういう風にしか演出できなかった監督のセンスが私は疑問なわけで。
総ずるならなんか変なヤクザ映画の一言ですね。
室岡と兼高のバディものとして、その出会いと別れを描きたかったなら、もっとお互いの立場の縛りを強固にするべきだったし、138分をブラッシュアップして枝葉末節を刈り取るべきだった。
なんでクライマックスの室岡と兼高のシーンを、よくわかんない抽象的なセリフであっさり流しちゃうんだろう、と私は疑問でしたね。
絶対にテーマはこの二人の関係性でしょ?と思われるのに、あんまり執着しないんだよなあ。
孤狼の血(2017)のほうがずっと面白かったですね。
ただそんな違和感のあれこれを差し置いて、主人公演じる岡田准一が文句なしにかっこよかったのは確かです。
実に渋い。
柔術ベースのアクションも素晴らしい。
いつかドニー・イェンと共演してほしいなあ、と思ったり。
今気づいたんだけど、これならザ・ファブル(2019)見ときゃ事足りるんじゃないかな、と思ったりもしました。