2022 アメリカ
監督、脚本 パーカー・フィン

他の人には見えないものがさんざん見えた挙げ句、満面の笑顔で自死することを最後に選択する人たちを描いたホラー。
ま、普通に考えて「精神病んじゃったのかな?」と大抵の人は判断するのではなかろうかと思うんですが、そこがこの作品のミソでして。
何か得体のしれないものが自分に迫ってきてることが、本人にしか実感できないんですね。
それを他者に証明するすべがない。
多くのホラーが似た構造を有してる、と言えなくもないんですけど、ここまで徹底的に尻尾を出さない(証拠がなく、可視化できない)のはちょっと珍しいかな、と思います。
で、なぜそんな現象が起こるのか?という話なんですけど、どうやら笑いながら死んでいった人を見た第三者に乗り移っていく何かが存在するっぽいんです。
悪魔なのか悪霊なのか呪いなのかよくわかりませんが、いうなれば一定の条件下で100%感染することを避けられないウイルスのようなもの、と考えればいいのではないのか、と。
どうやら意志があるみたいなんでね、厳密にはウイルスとは言えないんですけどね。
いわゆる連鎖する恐怖を描いてるわけです。
なので話題になった薄気味悪い笑顔のポスターとか、タイトルのSMILEは副次的な産物にすぎなくて(なぜ笑顔になるのかは別として)。
笑顔自体が大きな意味を持つわけじゃないんですね。
恐怖の根源にあるのは、不条理に降り掛かってきた意味不明なルールの悪意なんで、正直よくあるパターンといえばそうだし、決して新鮮味があるとはいえない。
ああ、きっと感染の大元を辿って、どうすればルールから除外されるかを探るんだろうなあ、と思って見てたらその通りの進行でしたし。
定形中の定形と言えなくもない。
ただ、前述したように尻尾を掴ませないことを徹底してるんで、それにまつわるドラマが意外に見応えがあって。
主人公は精神科の女医さんなんですけど、普通なら先生と呼ばれプロとして専門的判断をするべき立場にある人が、言動のおかしさから周りに狂人扱いされてしまうんですよね。
最終的には婚約者にすら見放される有様。
その道の専門家を失落させるという意地悪さは、そのギャップの大きさゆえ、妙なリアリティがあったような気がします。
唯一理解してくれる人物の設定も意外性があっていい。
物語の顛末が思いの他ブラックだったのも悪くない。
なんだよ、あれだけ大騒ぎしておきながら結局全員無事なのかよ、みたいなホラーはもう見飽きた、ってのも私の場合、あるんで。
あとは感染していく何かを最後まで得体のしれないままにしておいてくれたら、さらに好感度上がったかな。
見せてしまうとね、やっぱり冷めちゃう部分があるんで。
そういう意味では黒沢清のCURE(1997)は秀逸だったなあ、と。
やってることは構造的に変わらないですし。
ともあれ、SMILE(笑顔)に着眼した切り口は面白かったと思いますね。
ありきたりに期待を抱かせるプロデュースの才はあったのでは、と。