イギリス 2022
監督、脚本 アレックス・ガーランド
夫の自死を目撃してしまった妻が、心の整理も兼ねて借りた田舎町の家で遭遇する「不可解な出来事」を描いたスリラー。
もうね、いきなり結論から書きますけど、近年稀に見る狂ってる映画です、本作。
かといってデタラメや乱痴気に衝動任せな青臭い作品、ってわけじゃない。
ちゃんと確信的に、計画性をもって破綻と狂気を描いてるんですね。
なので余計にたちが悪い、ってのは確か。
中途半端に意味を求めたり、なぜそうなるのか?とか、どうして?と考えるのは時間の無駄だと思いますね、この作品の場合。
そもそも片田舎に借りた家の近隣に暮らす住人、関わる人が全員同じ顔の男だった、って段階で馬鹿げてますから。
そんなの合理的な説明がつくはずがない。
納得できる種明かしが可能な方がおかしい、って話で。
映像が異様に美しく(特に森の緑とか。彩色してるのか?ってぐらい目に鮮やか)、さりげないワンショットが写真家レベルで見事な構図取りだったりするんで、前半はね、これはきっとなにかあるに違いない、とついあれこれ憶測をたくましくしてしまいがちなんですけど、それもせいぜい中盤ぐらいまでですね。
あ、これは説明する気ないわ、というか無理だろ、と思える不可解な事象がいくつか重なった時点で私は悟った。
むしろこれは主人公の心象風景?とでも考えた方が不条理さに冷めなくてすむのでは?と。
特に終盤30分なんて悪夢的狂乱劇がひたすらグロテスクに連続。
アートに気味が悪く不穏なだけかと思ったら、混沌すらもアートで縁取ろうとするのか、ガーランドよ?ってなもの。
そして迎えたクライマックス、どう決着つけるつもりなんだ?と思ってたら、予想すらしなかったところへ急旋回で、もー心底愕然。
いやね、不可解さも不条理さも全部納得ですね、ある意味ね。
そりゃわからなくて当たり前だわ、とも思う。
だって描かれてるのは嫁に執着するモラハラ夫の情けなさ、どうしようもないうっとおしさだったりしますから。
この内容で一体どうやってそんな場所へ着地する?と思うかもしれませんが、ちゃんと降り立つんだよなあ、これが。
ついさっきまでさんざん風呂敷を広げまくってトラウマ級に醜悪だったのに、いきなり4畳半(最近は4畳半なんてないか)でお茶の間的にすっかり落ち着いて収束ですから。
落差もさることながら、恐怖すらもうんざりしてしまう感情には勝てない、としたウィットな視点につくづく感心ですね。
しかもこれがきちんと主人公に対する「救い」になってたりもするんですよ。
恐るべし、アレックス・ガーランド。
どっちかというと悲劇で重苦しくなりそうな題材を、美醜の対比で鮮やかに装飾した挙げ句、茶話のように他愛なく仕上げてしまうのか、と。
エキセントリックでホラータッチな部分もあるんで見る人によって賛否が分かれそうですが、こんなことやってるやつは他に居ないと私は思いますね。
個人的には2022年度の大収穫といってもいい一作。
前作、アナイアレイション(2018)も只者ではないと感じさせる一作でしたが、さらに自分らしさを推し進めてきた印象。
こんなのA24かNETFLIXぐらいでしかやれない、とは思いますけど、どうか変節せず更に突き進んでほしいものです。
傑作というには個性的すぎますが、この非凡さは映画好きなら間違いなく要チェックでしょうね。