スペイン 2021
監督 アレックス・デ・ラ・イグレシア
脚本 アレックス・デ・ラ・イグレシア、ホルヘ・ゲリカエチェバリア

観光客を狙う道化師姿の殺人鬼を描いたスリラー。
オーバーツーリズムに対する地元住民の不満や懸念が、作品のテーマとしてわかりやすく提示されてますけど、うーん、アレックス・デ・ラ・イグレシアにあんまりその手の社会性を私は求めてなくて。
だって気狂いピエロの決闘(2010)やスガラムルディの魔女(2013)を撮った人ですよ?
バカ映画じゃん(褒めてるんです)。
特にスガラムルディの魔女なんて、終盤あり得ない展開すぎて大爆笑、個人的に拍手喝采でしたしね。
おふざけと悪ノリがこの人の持ち味じゃなかったの?と。
そう言えば刺さった男(2012)なんて作品もあったな(しかし俺、結構見てるな、この人の作品)。
ほら、やっぱり奇想とお笑いの2丁拳銃じゃねえかよ。
なのにね、今回ジャーロへのオマージュだかなんだか知らないけど、妙に真面目でこの手のスラッシャームービーの定型をなぞるかのようなプロットでシナリオ進行でね。
いわく、バカなイタリアの若造共がベネチアで迷惑も顧みず大騒ぎ。
いわく、頭のネジの切れた殺人鬼がピエロ姿で大殺戮。
阿呆で無軌道な若者が次々にやられていくパターンもうんざりなら、ピエロ姿の殺人鬼というどこかで何度も見たようなキャラクター造形にもうんざり。
またエンディングがなんとも尻すぼみでねえ。
ペストマスクの男が最後の最後で何かしでかしてくれるに違いない、と一縷の望みをかけていたのですが、唖然とするほど見かけ倒しで終わりましたからね。
だからチープで矛盾をはらんでるけど、いやにショッキングで記憶に残る、なんて芸当はダリオ・アルジェントにしかできないんだって。
真似しようったって無理なんだって。
なんで自分の得意分野であるコミカルな演出、作劇を排除しちゃったのかな、と思いますね。
本当に申し訳ないんだけど、いいなと思えるところが見当たらないです。
どうしたアレックス・デ・ラ・イグレシア。
60歳を目前にして今更路線変更か?
頼まれたから急場しのぎでとりあえずジャーロっぽいのをサクッと仕上げてみました、あ、俺の名前は出さないでね、それはちょっと困るから、みたいな映画。
残念ですが箸にも棒にもひっかからぬ凡作かと。