2021 フランス
監督 ファブリス・エブエ
脚本 ファブリス・エブエ、バンサン・ソリニャック

家業である肉屋の経営に行き詰まった中年夫婦が、人肉を加工した食肉を販売することでお店も人生も持ち直していくお話。
人肉販売してる、などと書くと、快楽殺人鬼カップルの呪われた副業なのか?!実利と性癖を両立させてるのか?!などと勘違いしてしまいそうですが、やってることは字面そのままなものの、シリアスに陰鬱な感じではなく、どっちかというとコメディです。
いわゆるブラックユーモアってやつ。
ま、人体解体シーンとか出てくるんでね、グロいしホラーだと感じる人もいるかもしれませんが、目を背けたくなるようなレベルでもないですしね。
むしろ、あの手この手で笑わせたいんだなあ、監督は、って感じ。
そもそもですね、主人公である夫婦二人が地味にこつこつ努力して生きてきました、って感じの見るからに善人でして。
人肉を売ろうとしたきっかけも、過激なヴィーガンに店を攻撃されて仕返ししたらあっけなく死んじゃったものだから、その処理に困って解体、という前提がある。
奥さんが気づかずに売っちゃうんですよね。
そしたら「なんだこれは、うますぎる!」と大評判になって、やめるにやめられず仕入れに出かける(人間ハント)羽目になる、と言う流れ。
いや、間違いなく人肉はうまくないぞ、と私は思うんですが、そこでひっかかちゃうと先に進めないんで、まあ、それはそれとして。
過去にも八仙飯店之人肉饅頭(1993)とか、色々カニバリズムな映画はありましたけど、この作品が他とは違うのは、仕入れを通して奥さんは夫に再起してほしい、と願ってる点ですね。
表面的には悪態をついて「離婚する!」とか言うんですけど、本音では若い頃のかっこよかった夫に戻って欲しい、と思ってる。
倫理観とかモラルとか滅茶苦茶だと思うんですけどね、少し手を汚すことで大金が転がり込んできて、みんなが喜ぶなら、続けられるところまで続けりゃいいじゃん、と短絡的に考えるのはわからなくもない。
挙げ句には「あいつはヴィーガンだからきっと肉がうまい」だの品定めを始める始末でして。
なんでそんなところで職人はだしなんだよ、と爆笑。
貧すれば鈍する、を地で行ってる感じではありますが、役に立たない法律や資本主義社会の残酷さ(格差)みたいなものに対するしっぺ返しとばかりに連続屠殺なんでね、えーと正義ってなんだっけ?人権って中国にはなかったよな?みたいな塩梅で罪悪感がどんどん遠のいていくわけです。
くたびれた中年夫婦の酸いも甘いも噛み分けたオフビートな会話がいいんですよね。
お互いのことは全部わかってて、わかってる上で「私達も少しぐらい良い思いをしたっていいじゃん」と願う心情が泣けてくる。
いやもう、全部間違ってはいるんですけどね、最初の選択からしてなにもかもが。
夫婦の滑稽味が犯した罪とのアンバランスさでひときわ輝く秀逸なコメディでしょうね。
プロットにあまり新鮮味はありませんが、キャラクターと台詞回しが良く出来てるんで不思議と記憶に残りました。
楽しめる一作だと思いますね、それほどエキセントリックには感じないと思いますよ。