聖地には蜘蛛が巣を張る

2022 デンマーク/スウェーデン/ドイツ/フランス
監督、脚本 アリ・アッバシ

イランに実在した殺人鬼サイード・ハナイによる娼婦連続殺人事件に着想を得て映像化されたクライムサスペンス。

監督は怪作(トラウマ映画?)ボーダー二つの世界(2019)のアリ・アッバシ。

なんせボーダーがアレで、その前作マザーズ(2018)があんな感じだったわけですから。

そりゃ、身構えないほうがおかしいだろ、って。

絶対普通のシリアルキラーの話じゃねえわ、そうに決まってる、きっとまたひどく混乱させられるか、極めてショッキングな内容なんだろうなあ、ああ、嫌だ、とびくびくしてたら、意外にもオーソドックスな仕上がりで「あれ?」って感じでしたね。

なんせイランにおけるイスラム教の聖地マシュハドが舞台となる物語なんで。

それだけでも独特といえば独特ではあるんですが、そもそもですね、私の浅学さが原因であるのは間違いないにしてもマシュハドって言われてもね、どこのことなのかさっぱりわからんわけですよ。

なんか色んな人が巡礼に訪れてるみたいだな、というのは見ててわかったんですが、そこから導き出されるイメージはバチカン市国みたいなもの?といった貧相なもの。

なのでマシュハドに娼婦がいることがなぜそこまで問題なのかがよくわからない。

おおむね巨大な都市には光と影があって、ダークサイドの存在しない街なんてありえないだろう、と私は思うんで。

というか、娼婦に身をやつす女が多いのは、貧困であるからであって、それは宗教ではなく政治の問題だろうと。

それをなぜ神様の名を借りて罰しようとするのだ、犯人は?と不思議なわけです。

じゃあ娼婦を買ってる男どもはいいのかよ、って話でもあって。

凶刃を振るうなら、娼婦を取り締まらない警察や政治家どもをまずターゲットにすべきじゃないのか?と思ったり。

ゆえにシリアルキラーの所業を「神のおこないだ」と支持する大衆心理とか、もう全く理解できなくて。

このあたりの噛み合わなさを埋めるには、イスラム圏の男尊女卑がまかり通る社会性を学ぶほかありません。

多くのイラン人監督が声を上げようとしてイスラム文化指導省に潰されてる状態が今も続いてますしね、どうしてもイスラム世界の感覚ってのはわかりづらかったりはするんですけど、とりあえず、異常であることだけはなんとか理解できる、程度にしか受け止められてないのが私の現状。

結局、そこに全く共感、同意できるものがないんで、どこかよその世界の出来事、としてしか映らないんですよね。

難しいところだよなあ、と思います。

いっそのことファンタジーの手法で、ゼロから架空の宗教国家を創造してくれてたら、逆に怖さも真に迫ったか、と考えてみたり。

みんなマシュハドの現状は知ってるでしょ?ってところから映画が始まってるんで、異文化他民族の人間にとってはどうしても不可解さのほうが先に立つ。

いやそりゃ不勉強なのが悪いんです、そりゃ確かなんだけど、ワールドワイドに作品をアピールしたいなら、イスラム圏ってこんな感じじゃん?知らないの?じゃだめだと思うんです。

そういう風にしか撮れなかった演出力不足が原因、という見方もできるかもしれません。

ボーダーであれほど奇抜な想像力を披露したアリ・アッバシが、なんだか急に地に足をつけちゃったような印象ですね。

面白くないわけじゃないんですが、私の感覚としてはこれまで大量に制作されてきた実録連続殺人鬼ものの映画(テッド・バンディとかヘンリー、ゾディアックとか)とあまり大差ない感じ。

アリ・アッバシにはもっと冒険してほしい、と思いますね。

ま、この映画のせいでイラン政府から睨まれてるみたいなんで、めちゃくちゃ冒険してるといえばそうなんですけど、そっちの冒険じゃなくて。

いったいなんなんだこれは?と思わず怯んでしまう忌まわしさ、狂気を絵にできる監督だと思うんで、できればそちらの才を伸ばしていただきたい、と思う次第。

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