アメリカ 2021
監督、脚本 M・ナイト・シャマラン
急速に時間が経過する謎のビーチに閉じ込められた、旅行客の顛末を描くSFスリラー。
なんせまあシャマランの映画ですんで。
これまで幾度となく観客を裏切り続けてきたせいで(悪い意味で)本国アメリカですら凶状持ちみたいな扱いになってた監督ですから。
SNSで良からぬ発言をしたわけでもないのに、ここまで期待されないというか、いい加減にしろ、と思われてる人も珍しいわけで。
ま、ここ最近は、2017年に公開されたスプリットが全米で3週連続1位のスマッシュヒットをかっ飛ばし、完全復活を印象付けた、などと再評価の機運も高まってますが、この作品もねえ、私は全く評価してなくて。
もうほんとこの人は同じところをずっとぐるぐる回り続けてるな、と。
シャラマン、私に言わせるならSFがわかってないんですよね。
わかってないくせにSF的な題材を用いてどんでん返しを企むから失敗を塗り重ねるんであって。
で、今回もSF的なわけですよ。
しかも大御所SF作家が大昔に短編で発表してそうな時間ネタ。
これを108分かけてやるという。
決して期待しちゃいけない、と自分を戒めながら警戒心たっぷりで見進めていったんですけど、正直ね、前半は予想外にもさほど悪くはなかった。
はっきりいって、全盛期に比べて如実に演出力は落ちてる、と思います。
キャラクターの描き分けが甘いし、突然不条理な状況に置かれた登場人物たちの追い詰められた心理をじっくり描けてないし、なぜビーチが脱出不可能なのか、そのルールづくりも緩い、と感じた。
けどまあ「それなり」には仕上がってるんですよ。
そこは年の功なのかな、と。
もっと話を膨らませられただろう、と思うし、及第点ギリギリな調子ではあるんですけど、退屈で見てられない、ってことはない。
なんの予備知識もなしにこの映画を見た人を繋ぎ止めておけるだけの、最低限な接待はやってくれてた、と思います。
問題はオチでしょうね。
これはこれでオチてる、とは思うんですよ、でも謎に対する種明かしにはなってないんですよね。
望遠鏡の謎が解けたじゃないか!という人もいるかとは思うんですけど、そういうことじゃなくて。
やはり皆が知りたいのは「なぜ時間が恐ろしいスピードで経過するビーチが存在するのか?」「どういう仕組みになってるのか?」だと思うんですよ。
それこそがSF的帰結であり、物語を司る想像力の働かせどころじゃないか、と。
これね、賢いというべきなのかもしれないですけど、シャラマンは「そんなのわかるわけない」って按配で答え合わせをする気がないまま、現実的な筋運びにストーリーの顛末を求めてるんですよね。
それが駄目だとは言わないです。
言わないけど、なんかすっきりしねえな、と私なんかは思ってしまう。
なんだろ、自分の良くないところがわかったんで、今回はそれを踏まえた上で背伸びせず、できることだけに心血注ぎました、みたいな。
野心とか挑戦心は置いてきたぜ!的な。
辛辣かもしれませんが、シャラマンの内では予定調和といってもいい創作だったんじゃないでしょうかね。
こういう風にすれば、みなさんそこそこ満足してくれるでしょ?といった計算高さみたいなものを身につけやがったな、と。
新人監督が低予算で作りました、ってことならまた評価も変わってくるんでしょうけど、ベテランが「置きにいった」映画を復活!と喜ぶほど私は初じゃないんで。
必要なのはいつまでもシックスセンス(1999)の影を追い求めることじゃなくて、違うベクトルの別の方程式だと思うんですが、どうなんでしょうね、緩やかな落日をそこそこの評価で過ごすことが今の彼にとっては心地よいのかもしれませんね。
それを否定できるほど私も傲慢じゃないんで、あとは見る人次第ということで、はい。