2006年初出 荻野真
集英社ヤングジャンプコミックス 全12巻

孔雀王(1985~)連載終了後に発表された孔雀王退魔聖伝(1990~)の続編。
退魔聖伝より、4年半後の世界が舞台となってます。
私は前作を、かいつまんで流し読みしかしてないので詳しくは知らないんですが、退魔聖伝、どうやら物語途中で突然終了してしまったみたいで。
打ち切り説が囁かれたようですが、実際は作者のモチベーション低下が大きな理由のよう。
退魔聖伝では仏教VS神道をやらかそうとしてたみたいなんですけど、なにかのインタビューで荻野真が「調べれば調べるほど神道に仏教のような計り知れない奥深さがなく、どう物語を進めていいか困惑している」と述べていたのを読んだ記憶がありまして。
そりゃそうだろうなあ、古事記に日本書紀ではなあ、と変に納得したのを覚えていて。
もちろん神道がそれだけではないのは確かなんですけど、エンタメなオカルトアクションにはあんまり向いてない教義だと私も思うんですよね。
密教の禍々しさ、観念的な底知れなさにはそりゃ勝てない。
そこを無理やり呪術大戦みたいな様相に持ち込もうとすると、そりゃ破綻することもあるだろうよ、って話で。
で、満を持して13年ぶりの続編ですよ。
作者自身ももやもやしてたものがあったんでしょうね、きっと。
ぶっちゃけ頑張ってる、とは思います。
各方面からの知識を総動員して「神を殺せる武器」をもり立てる展開は決して悪くはなかった。
宗教的知見に基づいたロジックの組み立ても緻密でしたしね。
ただねえ、相変わらずキャラが全員「記号」なんですよね、この人の漫画は。
マンガの描画についての記号論は有名だし、納得できるんですが「キャラクターそのものが記号」って、どうなのよ、と思うわけですよ。
悪なら悪、善なら善、そこにスケベだとか、ワイルドだとか、おっちょこちょいだとか、昔のアニメ程度の味付けしかなされてない人物像しか創出できないところに、荻野真最大のウィークポイントがあるように私は思いますね。
そのもっともたるものが孔雀でしょうね。
世界を巻き込んでアルマゲドンとかやりながら、ここまで浅い人物像って、なかなかないと思いますね。
キャラが定まらない、と言った方がいいのかも知れないけど。
宗教を題材にしながらも、人間に興味がないのかな?作者は?と漠然と思ったり。
また、孔雀王本編と同じように、スケールばかりが大きくなって、ひたすらインフレ気味のバトルが導くシナリオ展開も「同じことをやってる」といえば否定できないものがあったかもしれません。
あと最悪なのは打ち切り終了したことでしょうか。
あわてて風呂敷を畳んだせいで繕いきれてない物語のほころびが無数にあって。
私は荻野真のことを頭のいい漫画家だと思っているので、それなりにね、期待するものもあったんですけど、さすがに退魔聖伝~曲神紀の流れは称賛できないものがありますね。
手を出さないほうがよかったかも、と少し思ったり。
膨大なデータを背景に二転三転の伝奇SFアクションをやらかす漫画家の第一人者が、本当の意味でついにつまづいたのはこの一作だったのかもしれません。