孔雀王

1985年初出 荻野真
集英社ヤングジャンプコミックス 全17巻

裏高野の退魔師、孔雀の化け物退治行を描いたオカルトアクションとして連載が始まったが、後に世界を巻き込んで光と闇の戦いを描く壮大なSF伝奇バイオレンスして大化けした大作。

確か、夢枕獏の「魔獣狩り(1983)」や「闇狩り師(1983)」への漫画界からの回答、みたいな感じで連載が始まったことを記憶してます(はっきり覚えてませんが)。

連載にあたって、作者は夢枕獏に断りをいれたとか。

というのも割とね、設定がかぶってるんですよね。

魔獣狩りの初期三部作は密教と空海が重要なテーマになってますし。

本作も主人公は真言密教の坊主ですしね。

そりゃ「パクリだ!」と騒ぎ立てる人は絶対に出てくるでしょうしね。

当時はSNSが発達してなかったから今みたいに炎上ってことはなかったでしょうけど。

ちなみに夢枕獏本人は「どんどんおやりなさい」と激励したらしいです。

うーむ、懐の広い人だ。

ま、私自身が夢枕獏を読んでいたせいもあって、正直序盤はさほど心動かされるものもなかったんです。

そこはもうお墨付きとか関係なしに「やってることは鬼太郎と同じだし」と思ったもので。

また80年代後半って、この手の妖怪退治?ものが結構たくさんあったんですよね。

裏高野の退魔師という役柄も、実際に高野山を訪れたことがある身としては「それはねえわ」と断言できる胡散臭さでしたしね。

いくら漫画でも無理筋すぎ、と。

唯一、類似作との違いがあるとすれば、凄まじい情報量を誇る無尽蔵なうんちくがこの作品にはあったこと。

一体作者はこの漫画を描くにあたってどれほどの量の本を読んだんだろう?と立ちくらみがするほど博覧強記なんですよね。

それが活きてくるのが後半の展開でして。

光と闇の戦いという、どこぞのラノベのような進行に物語は舵を切るんですけど、背景を支える枝葉末節にいちいち密教世界の教義に基づいた裏付けを盛り込んでくるものだから、その説得力たるや半端じゃない。

ケレン味もここまで理論武装されたらつい説き伏せられてしまう、ってなものですよ。

あえて暴論を述べるなら、80年代に蘇ったデビルマンがこの漫画だ、という見方もできるんじゃないかと思いますね。

デビルマンは永井豪の情念と過激さが結実した終末SFの傑作ですが、孔雀王は情念の代わりに、ロジックと、多くの人が知る由もなかった密教的知見を作品に持ち込んでハルマゲドンを演出した、未踏の大作だったように思います。

ぶっちゃけ絵柄とか、ステロタイプな情動でしか動かないキャラとか、ドラマのベタさが私はあんまり好きじゃないんですけど、さすがにここまでやられたら批難の矛先も収めたくなる、というもの。

古い話で恐縮なんですが、小室孝太郎の命MIKOTO(1978~)は孔雀王にて完結をみた、と私は思いましたね。

伝奇バイオレンスとはなんぞや?と言う人に是非読んでみてほしいシリーズ。

時代にくさびを打ち込んだことは確かでしょう。

余談ですが、17巻は外伝的内容の短編集で、本筋は16巻で終わってます。

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