凱羅

1986年初出 板橋しゅうほう
アスキーコミックス 全4巻

もう、何事か、ってレベルで大興奮しながらむさぼるように読んだ記憶がありますね。

京都を舞台とした近未来SFなんですが、物語世界の作り込みもさることながら、独創的なデザイン性やアイディア、想像力を刺激するバイオロジカル?なシナリオともに、こりゃ一級品だ、と確信。

それは改めて読んでみても全く印象を違えることはなくて。

京都を文化都市、大阪を経済都市、東京を行政都市として国家の機能を分散させた時代のお話、というのが恐ろしく早かったことは間違いないですね。

実際に2022年度を目処に文化庁が京都に移転されますから。

それを86年に漫画のネタにするか?!という。

権力が分散したことにより、それぞれの自治体が独自色を強めていく、という未来像の膨らませ方もいい。

ちょっとハッタリが効きすぎではあるんですが、京都では寺社奉行と揶揄される組織が機動僧兵を組織し、警察権力の上位に君臨してたりするんですね。

そんな折、偶然から地下より、逆さまに建造された五重の塔が見つかる。

蝙蝠寺と呼ばれたその謎の建造物から見つかったのは、琥珀に閉じ込められた2匹の昆虫。

そえられた古文書に記されていたのは「決してこの虫を琥珀より出すなかれ」。

そんなの出さないわけがない。

さて虫はどういう影響を人間におよぼしたのか?巨大製薬会社の思惑なんかも絡んで物語は人類規模で「変異」と向き合う方向へと進んでいく。

はたして凱羅因子とはなんなのか?

これは進化なのか、それとも滅びなのか?

もうね、のちの「パラサイト・イブ」か、って話ですよ。

全く先の展開が予想できない。

それでいて、作者らしくエンターティメント性も損なわれていないのがお見事という他なく。

触れるだけで電子データをハックする能力を持つ「つつあるき」の善鏡とか、不死身の十左とか、多彩なキャラが派手なアクションで見せ場を作ることにも余念がない。

板橋しゅうほうの美点はそのままに、さらに本格SF度が高まった印象。

これはとんでもない傑作になるのでは・・!と当時私は予感したんですけど、肝心の掲載誌であるスーパーアクションが、87年にてまさかの休刊・・・。

当然物語はまだ途中です。

それなりにまとめられてはいますけど、とても終わったなんて言えるものじゃない。

長らく私にとって「凱羅」は幻の傑作でした。

これがちゃんと終わっていたらセブンブリッジを超える代表作になってたかもしれないのに・・・と悔やんだこと数しれず。

それが突然、復活の狼煙をあげたのが、6年後の93年。

なんと月刊ログアウト(廃刊)誌上にて続きを連載する、との朗報が。

見てる人は見てるんだなあ、と思いましたね。

もう、小躍りですよ、待ってました!と拍手喝采。

ところが、だ。

人それぞれ反応はさまざまなんでしょうけど、帰ってきた凱羅は凱羅じゃなかった。

シンプルに言ってしまうなら、SFアクションがSFファンタジーに様変わりしちゃってた。

主人公である善鏡たちの「次の世代」の話にしたことが影響していたのかもしれませんし、掲載誌の性格を鑑みた結果だったのかもしれませんが、そこに私が興奮したスリルとミステリはなかった。

これが凱羅じゃなかったなら「作者らしい良質な一作」で私もカウントしていたかもしれません。

でも凱羅は作者自身が次の扉をこじあけようとしていた作品だと私は考えているんですね。

なのにやり慣れた手口でまとめてしまった、みたいな。

1、2巻と3、4巻がまるで別物、というのが私の感想。

連載ってのはやはり水物なのかなあ、と思ったりしますね。

月刊ログアウト版を、新・凱羅、もしくは凱羅2と考えるのがいちばんしっくりくるのかもしれません。

凱羅の続編はいまだ私の中で幻のままですね。

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