1984初出 小池一夫/松森正
集英社プレイボーイコミックス 全19巻
日本ボクシング界の父といわれた渡辺勇次郎氏をモデルとした作品。
クジラ漁の網元の息子に生まれた勇次郎が、修行のため、と促されて何故かアラスカのエスキモーの元に預けられる展開から物語は幕をあけます。
見知らぬ土地で右往左往しながら徐々にボクシングにのめりこんでいく勇次郎の姿を描いた青春群像、といった内容ですが、さてこれがどこまで史実に忠実なのかは不明。
なんせ小池一夫ですんで、相当な脚色や演出はあることだろう、と思われますが、 明治の終わりから大正にかけての時代に息吹いていたボクシングの世界に生きる海外在住の日本人を描写する、という独特の舞台設定は実に読み応えがある、といっていいでしょう。
掲載誌がプレイボーイだったこともあってか、エッチなシーンも盛りだくさんで、いかにも小池劇画、とニヤリ。
松森正の画力が非常に高いことも魅力のひとつでしょう。
差別や陰謀に巻き込まれながら、くじけずに目の前の敵を撃破していく勇次郎の活躍は、中盤ぐらいまで胸踊るものがありますが、残念なのは帰国してからのシナリオ運びでしょうね。
日本初のボクシングジムを開く、という理想に向かってひたすら突き進んでくれたらよかったんですが、棒術の使い手と異種格闘技戦に挑んだ後ぐらいから急にストーリーがブレだします。
エンディングは、当時の事情を知らなくとも、不人気で打ち切りを示唆され無理矢理物語をまとめたんだろうなあ、と思われる、どこか尻すぼみな印象、濃厚。
途中までは、これは日本のボクシング漫画の歴史に残る作品では?なぜ話題にならないのか?と疑問だったんですが、最後まで読んで納得、といった感じです。
切り口の珍しいボクシング漫画だったけに残念、の一言。
どこかでテンションを維持できなくなった、という事なのだと思いますが、かといって、忘れてしまうには惜しいなにかがあることも確かです。
評価されるべきはやはり凡庸に史実をなぞっただけの偉人伝になってない部分でしょうが、では今あらためて読むだけの価値はあるか、というと難しいところでしょうね。