合葬

1982年初出 杉浦日向子
ちくま文庫

大政奉還後の幕末、将軍徳川慶喜の身辺警護と江戸の秩序守護を目的とした組織「彰義隊」に属する若い侍たちの生き様を描いた時代劇。

いわゆる上野戦争までの前日譚、と言う形で物語は進んでいくんですが、彰義隊自体に詳しくはないので、まるで知られざる歴史の1ページに触れているようにも感じられて、どこか興味深かったのは確かですね。

まあ、いつの時代にも変化を受け入れられない石頭ってのは居るもので。

これを学生運動と一緒にしちゃあ駄目なんでしょうけど、同じハードウェアの表と裏のようにも感じられたり。

時代のうねりにどう対処していいかわからないモラトリアムな連中が、かつての安心感を求めて彰義隊の門をくぐるくだりとか、ああ、なるほどなあ、と思いましたね。

保守的な主義主張の元、1枚板なわけじゃないんですね、彰義隊。

右寄りなやつもいれば、融和政策を進めるやつも居る、でもその下にいるのは実のところ烏合の衆だった、という。

なんだか江戸の頃から全然進歩しとらんな、日本人、と思いましたね。

違うのは、当時は命の値段が安い、ということだけ。

で、あえて彰義隊に目線を向けるのであれば、その生命にこそこだわってほしかった、と思ったり。

最終的には主要登場人物全滅、ぐらいの悲惨さでも良かった、と思うんですよ。

そりゃ読後の苦味はとんでもなかったでしょうけど、あえて現代に史実を下敷きとして若輩の物語を蘇らせるなら、しくじったところで死ぬわけじゃないとタカをくくってるなめた連中に一発くらわすぐらいのインパクトがほしかった。

どことなくね、学習誌に載ってる歴史漫画を読んでるような感覚がつきまとうんですよね。

題材が題材ですから、作者お得意の江戸情緒が香るわけでも、市井の人々が醸す独特なユーモアが心地よいわけでもないですし。

なんか硬いんです。

本格的なストーリー漫画を描くには作者の力量が追いついてなかった、ってことなのかもしれませんが、私はいつもの杉浦日向子じゃないな、と感じました。

着眼点はいいと思うし、キャラクターもよく出来てる、でも物語に大きなうねりがないんです。

上野戦争で敗退するのはもうみんな知ってるわけですから、普通に学校教育受けてる日本人なら。

そこをストーリーのクライマックスにするのは予定調和のお手本みたいなものですからね。

まあ、この手の実話ベース?な物語って、難しいんですけどね、高名な大先生でも失敗作連発してますから。

映画化及び漫画家協会賞も受賞した有名な作品ですが、作者の持ち味はあんまり活かせてないように思いましたね。

すべての作品を読んでいるわけではありませんが、杉浦日向子は手のひらからこぼれ落ちる一握の砂みたいなところにピントを合わせたほうがいいものが描ける気がします。

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