2023 アメリカ
監督 ロバート・ロドリゲス
脚本 ロバート・ロドリゲス、マックス・ボレンスタイン
ふと目を離した隙に子供を誘拐されてしまった刑事の、心の闇とそれでもなんとか立ち直ろうとする苦悶の日々を描いたドラマ・・・かと思いきや、驚きのどんでん返しが待ち受けるSFサスペンス。
さてこの映画をSFと言ってしまっていいのか、非常に悩むところなんですが、劇中の重要なファクターである強力な催眠術ヒプノティックが現実には存在しない点から、大きなくくりで考えるところのSFではないか?と私は考えるんですよね。
実際、この映画を見て、ノーランのインセプション(2010)やマトリックス(1999)を引き合いに出す人は大勢居て。
いやそれ、ガチSFやんけ、と。
今あなたが見ているものは、本当にあなたの見知った世界か?と猜疑心を抱かせる物語構造から考えるなら、私はオープン・ユア・アイズ(1997)やミッション:8ミニッツ(2011)が近いような気もするんですけどね。
この作品をネタバレせずに解説することは本当に難しいんですけど、作品の煽り文句でもある「開始5分で騙される」という前情報のみで書き進めるなら、うん、たしかにそりゃ本当だ、とだけは言っておきましょう。
はいはい騙されるんでしょう?よしわかった、さあこい、もう何も信用しないからな、どうせあれもこれも全部ウソなんでしょ?わかってんだから、深刻ぶったところでお見通しなんだからこっちは、うんうん、がんばんなさいよ、俺を簡単にはあざむけんからなあ、って・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・ええっ!いや、ちょっと待て、それも嘘だったの?ひえええええ、それさえも??マジか!いやいやいやもう根こそぎやん!っと結局、ころっと騙されて驚愕したのが開始1時間ぐらい経過したのちのこと。
えー、わかっていても騙されます、いや、すまん。
私だけ?
でもこれを完全に予測した、って人は居ないんじゃないかと思うんですけどね。
いや、正直言うとね、いくつかヒントがあったから、ある程度は予想してたんですよ、多分こういうことなんだろうなって。
実際、浅くは正解してたんだけど、どんでん返しの深度がこっちの想像を遥かに上回ってまして。
で、そのまま最期まで突っ走らずに、二の矢、三の矢を用意してたのがこの映画の強力さで。
エンディングまで予断を許すことなし。
いやーしかし、ロドリゲスがこんな映画を作るようになるとは。
どっちかというと技巧派の手管だと思うんですよ、これって。
きちんとした計算と、それを形にする実行力がないと成り立たない。
ロドリゲスがヒッチコックをお手本にした、というのも至極納得ですね。
文句なしに面白いのは保証します。
ただ、欲を言うならね、ヒプノティックなどという特殊能力にも近い催眠暗示を持ち出してくるなら、それこそ催眠術そのものを考察、深掘りし、世界を広げて欲しかったですね。
かつての日本映画、催眠(1999)のように。
でないとただ驚かせたいだけのスパイ映画みたいな感じになってしまう。
それはそれでいいのかもしれないけど、催眠に特化した政府の秘密機関が重要な関わりを持つ物語の展開とかね、そんな組織はねえよ!ってつっこまれてしまう危うさを、現状併せ持ってる気もするんで。
荒唐無稽すぎる、って言われりゃそれまでですし。
変に揚げ足を取らせないための理論武装(疑似でいいから)というか、デタラメなりに外堀を埋めていく作業は必要だったかもしれません。
あとは邦題かな。
これ、絶対ドミノじゃなくて原題通りにヒプノティックでしょう。
なんでわざわざ陳腐にする?
どうあれ、コロナ以降ぱっとしなかった洋画の新作の中で、久々の快作だったことは間違いないですね。
広くオススメ。