ドイツ 2014
監督 クリスティアン・ペッツォルト
原作 ユベール・モンテイエ

アウシュビッツから奇跡的に生還を果たした女と、その夫との戦後の邂逅を描いた作品。
戦争に運命を翻弄された夫婦の奇跡的な巡りあわせを感動的に綴った大作なのか?と先入観をもってしまいそうな感じですが、どちらかといえばサスペンス寄りです。
というのも、妻は顔面に銃撃を受けたせいで、以前の顔ではない、という設定だからなんですね。
周囲の反対を押し切って探し出した夫も、妻を妻として認識できない。
それどころか夫は、彼女に、妻の面影があると言う理由から、彼女を利用して相続詐欺を計画する始末。
夫に本当のことを明かすことができず、自分で自分の真似をすることを夫に強要される主人公。
彼女が願っているのはただひとつのこと。
もう一度、夫と暮らしたい。
でも、もう一度、夫を信用していいのか、躊躇がある。
奇妙な同居生活はどこへ行き着こうとしているのか・・・・というのが、おおまかなあらすじなんですが、もうね、ここまでは滅茶苦茶面白かったんです。
私よ、あなたの妻よ、と言いたいのを押し殺して他人のふりをし続ける主人公のけなげさ、その思いの深さにはぐいぐいひきつけられるものがありました。
大仰にお涙頂戴な演出をほどこさず、淡々とテンポよくストーリーが進行していくのもいい。
もうちょっとひっぱっても良かったのでは、と思えるほど長回しをしないのは監督の個性なのか、意図的なものなのか。
そしてクライマックス。
ああ、ここでこのシーンをもってくるのか、と私は思わず膝をうってしまった。
さりげない伏線が見事にエンディングで結実。
わかっていても心が震える、とはこのこと。
やるせなく、もの悲しい物語ではあるんですが、それ故の美しさがある、といっていいでしょう。
これだけの素材をあっさり片付けすぎ、と言う人もいるかと思いますが、湿度の低さもこれまた味、と私は思います。
どこか銘品の佇まいのある良作。
邦題も久しぶりによく出来てる、と思いました。
高い構成力とセンスを感じさせるオススメの一本。
あたしゃ涙腺をやられた。