わたしはダニエル・ブレイク

イギリス/フランス/ベルギー 2016
監督 ケン・ローチ
脚本 ポール・ラヴァーティ

わたしはダニエル・ブレイク

心臓病を患い、休職を余儀なくされた主人公ダニエルが、国の失業者に対する補助制度に翻弄され、転落していく様子を描いた社会派ドラマ。

もうね、あまりにも日本と状況が酷似していて寒気がした、というのが本音ですね。

現状、まだ日本のほうが若干緩いかな、と思える部分はあるんですけど少子高齢化が進んでいくことに何ら有効な対策を見いだせてない状況を鑑みるに、気がつけばこの映画より酷い有様になってた、なんてことは十分ありえる、と私は思いましたね。

やっぱりなにがデタラメかって、名目上の失業保険を受け取るために、役所がダニエルに求職活動をさせようとするハローワーク?のありかたを描いたくだりにつきるでしょうね。

心臓病で働けないのに、役所の担当者は履歴書を持って規定数を満たす企業を訪問しろ、という。

なぜダニエルは傷病手当を打ち切られてしまったのか、一番の問題はそこなんです。

でも、お役所の人間は、それはうちの仕事じゃないからと突っぱね、異議申し立てをしろ、で終わり。

うちから生活費を受け取りたかったら病気だろうとなんだろうと働く意志があることを示してもらわなうい困る、の一点張り。

どう考えても頭おかしいですよね。

けれどそれが法的にはなんら矛盾することなくまかりとおってしまう。

イギリスに根強く残る階級制度もきっと影響していることでしょう。

口に糊するため、やむなく役所の言いなりになって、徐々に憔悴していくダニエル。

ダニエルの隣人である、シングルマザーに対する福祉のあり方を描いた場面も衝撃的です。

配給チケットに頼らざるを得なくなるまで追い詰められた母親が、配給所でカンヅメを前にして何をしたか、私はこの国は本当に文明国なのか、とすら思った。

全編を通して痛切に訴えられているのは、不意の事故や病気で一度転んだ人間を、福祉行政は救おうと思ってない、という悪夢のような現実模様。

ラストシーン、あまりの救われなさに私は呆然でしたね。

余韻すら残さない。

尾を引くのはひどく苦い味の薄ら寒さだけ。

物語の構造的に近作「幸せなひとりぼっち」と似た部分もあるんですが、決定的に違うのは徹底して現実的であり、中途半端な都合の良さやありもしない夢物語を完全に排除してること。

根底にあるのは憤りであり、怒り。

引退を撤回してまでこの作品に取り組んだケン・ローチ監督、乾坤一擲の一作でしょうね。

尊厳を持って生きようとする善人を、制度が身も心もズタズタにする様を描いた傑作だと思います。

全くもって他人事じゃない。

ほんとなんとかしないと日本もこれ以上にひどくなる、と私は見てて痛感させられました。

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