フィンランド/エストニア/ドイツ/ロシア 2021
監督 ユホ・クオスマネン
原作 ロサ・リクソム
世界最北端の駅に向かう寝台列車のコンパートメントで、偶然乗り合わせた男女の噛み合わない道行きを描いたロードムービー。
私はあんまりこの手の映画を好んで見ないんで、似たような作品があるのかどうかわからないし、その系譜も知らないんですが、それでもこの作品は正反対な二人が惹かれ合う物語としてすごく良く出来てる、と思いましたね。
ラブロマンスやラブコメの、いわばテンプレートと言っても良い「最初の印象は最悪だったが、いつしか・・・」なシナリオ進行が、ありきたりに感じられないのがまずすごいな、と。
前作、オリ・マキの人生で最も幸せな日(2016)には全くピンとこなかった私ですが、今作は、なんかわからんがやたらと前のめりになってしまいました。
監督が上手だったのは、すべてを「未満」で紡いでいった点でしょうね。
お互い惹かれ合うんだけど、恋人同士として結ばれるわけじゃない、かといってそれがままならない空気感をもたらしているわけでもない。
私は男女の友情とかありえん、と思ってる人ですが、この映画を見てるとこういう関係性もあるのかもしれんなあ、と思えてくる。
恋人にドタキャンされて一人旅を余儀なくされた女子学生ラウラが、同性愛者ながらも「恋に恋してる(お相手が身を置く世界に焦がれている)風」なのも影響してるのかもしれません。
なんかまだ未分化だな、って感じなんです。
同室になった炭鉱労働者のリョーハも粗野ながら、まだまだ少年ってノリで。
お互いがお互いに自分を投影して、いろんなことを再認識していく、みたいな。
まるで違う二人なんですけどね、見てるとだんだん兄弟のようにも見えてくるんですよね。
ものすごく穿った見方かもしれませんが、ひょっとしたらリョーハはゲイなのでは、とつい勘ぐったり(それはさすがに出来過ぎか)。
終盤、雪に閉ざされ交通手段のない中、強引にペトログリフへと向かう二人の姿は、簡単にはお目にかかれないぐらいの多幸感に包まれていて。
無邪気というか純粋って、こういうシークエンスでこそ使う言葉だな、と。
多分私がおかしいんでしょうけど、なんかもうね、そういう場面じゃないのに泣けてきちゃってね。
劇的な展開や胸を打つ衝撃のシーンがあるわけじゃないんですけど、ひどく気持ちを揺さぶられた一作でしたね。
白一色な雪景色の中で、列車内という密室を切り取ってるだけなのに、ここまで退屈させないのは見事。
テレビドラマが得意とする恋愛至上主義というかロマンス乞食な作劇に、いつもドーパミン溢れさせてる方々に是非見てもらいたいですね。
非日常という名のさりげない毎日の断片が、なんだか妙に輝いて見える秀作。
リョーハ役のユーリー・ボリソフの天然としか思えぬ演技も必見。
余談ですがコンパートメントでいきなりロキシー・ミュージックの「恋はドラッグ」が流れ出してびっくりした。
すげえなロキシー、ロシアでもメジャーだったのか。