リボルバー・リリー

2023 日本
監督 行定勲
原作 長浦京

大正末期の日本を舞台に「最も排除すべき日本人」と呼ばれた敏腕女諜報員、小曾根百合の暗闘を描いた歴史活劇。

消えた陸軍資金を取り戻すためのキーとなる少年を、なかんずく守る羽目になる主人公の孤独な戦いに焦点をあてた内容なんですが、ま、最大の難点は小曾根百合というキャラクターに真実味がない点にある、と言っていいでしょうね。

16歳から台湾のスパイ組織幣原機関で訓練を受け、東アジアで57人を殺害した女という設定なんですけど、いくら引退したからとはいえ、なんでそんなヤバイヤツが東京でのうのうと飲み屋の女将に収まってんだよ、って話であってね。

せめて身を隠してくれよ、って。

任務で手を汚したんでしょうけどね、名うてのシリアルキラーでさえ怖気づきそうな大量殺人者がですよ、しれっと接客商売って、いくら人より罪を憎むべきとはいえ厚顔無恥すぎるだろうと。

普通なら残りの人生、喪に服しますよ、自分の罪を悔い改めてね(まともな人間なら)。

それ以前に、そんな人間兵器みたいなやつを国家が放っておくとは思えない。

原作では、なぜ飲み屋の女将におさまっているのか?きちんと事情が説明されてるのかもしれませんけど映画じゃノーコメントなんでね、違和感の強さは半端じゃなし。

あと、そんな血まみれの陰惨な過去を持つ女がですよ、全然影がない、ってのはどういうことなのか、と。

えっ、真正のサイコパス?それともバカなの?って。

これは監督の演出ないしは演技指導、もしくは綾瀬はるかの資質の問題なのかもしれないですけどね、辛辣に言っちゃうなら漫画よりも漫画みたいに見えてくるわけですよ、リボルバー・リリーがね。

で、こういうのを解決する手段ってのはたったひとつで。

そもそもが荒唐無稽なんだから、最初から開き直りゃ良かったんですよね。

なぜハッタリとケレン味でこの物語を彩ろうと思わなかったのか、ほんと不思議で仕方ない。

真面目にやってどうする、行定勲。

だいたい帝国陸軍相手にいくら敏腕スパイとはいえ女ひとりで太刀打ちできるはずもないわけだから。

それでもでたらめを押し通すつもりなら(結果的にそうなってる)、それなりの横紙破りな大風呂敷は絶対に必要。

コツコツ頑張ったら勝てました、ってな嘘に、誰が拍手を送るんだよ、って。

変に感動路線にしようとしてたのが敗因だったのかもなあ。

背景美術や小道具に注意を払ってるのと(もうちょっと埃っぽくてもよかったが)、綾瀬はるかを恐ろしく美人に撮ってる(モガを意識してるっぽいのがいい)のは評価していいと思いましたが、うーん、残念ながら他に惹かれるところがなかったですね。

あ、綾瀬はるかが思ってた以上に動けてたのは高評価かな。

アクションを演出、指導した人が優秀だったのかもしれませんが。

原作は大藪春彦賞を受賞してるんで、きっと血湧き肉躍る内容なんでしょうけど、映像は上手にかっこよくて強い女を作り上げられなかった、ってところでしょうか。

ま、なかなかね、グロリア(1980)みたいなのは出てこないものです。

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