アメリカ 2021
監督 フィリップ・ノイス
脚本 クリストファー・スパーリング
息子の通う学校で銃を持った男の立てこもり事件が発生、遠く離れた場所にいる母はスマホ一台で息子を救えるのか?ってなシチュエーション・スリラー。
よくある設定ではあるんですが、息子と母の間には、長きにわたる断絶がありまして。
息子が一方的に拒絶してるっぽいんですけど、作品の主題として母と息子は親子の絆を取り戻せるのか?というのがある。
そりゃまあ、オカンは「あなたの息子はまだ学校から脱出していない」と警察から告げられたらパニックになりますわな。
ましてや学校から遠く離れた森の中で一人ジョギング中、周辺には交通機関も人通りもないとなれば慌てないほうがおかしい。
で、一番肝心なのは、そのような絶望的局面にあって、母は何を選択し、どのような行動をとったことで息子に救いの手を差し伸べたのか、を描くことであって。
それが息子に伝わってこそ、親子のわだかたまりも氷解する、しいては親子愛も復活する、ってなもの。
そこがね、結構弱いんです、この映画。
スマホ一台でできることなんて限界があるからどうしたって痒いところに手が届かないのはわかるんですが、それにしたって状況把握にばかり尺を割きすぎ。
「その手があったか!」みたいな目からウロコがあってこそストーリーも盛り上がるんであって。
スマホのみゆえ、実は壮大な勘違いをしていた、みたいなどんでん返しでもいい。
すべてが予測の範疇と言い切ってしまうのは酷すぎるかもしれませんが、まあ、そうするしかないわな、そんなもんだろうな、で全部終わってしまってる。
アイディアに瞬発力がない。
でね、アイディアに工夫を凝らせることができないんなら、せめて孤立無援な母親を徹底的に追い込めばいいのに、すっ転んで足を痛めただけで済ましちゃってるのがこれまた貧相で。
車にはねられて粉砕骨折、すぐに輸血しないと命が危ない、ぐらいの演出的残酷さを見せつけてくれよ、と。
すげえ非道な事書いてますけどね、それでこそ死にものぐるいが絵になるし、母の愛の強さに心揺さぶられる、というもの。
あのね、ただ延々走ってるだけなんですよ、オカン。
しかもせいぜい1時間ほどの距離。
市民ランナーでもそれぐらいの距離は普通に走るわ、って話であって。
結局、危機的状況に置かれたことによって吊り橋効果が発動した、ってだけの物語になっちゃってるんですよね、総ずるならね。
ナオミ・ワッツのファンなんで迷いなく手に取った一本でしたが、うーん、凡庸かと。
これをギルティ(2018)やSearch(2018)と比べちゃいけない(多くの人はSearch2と似てる、って言ってますね、私は未見)。
シナリオの緻密さ、完成度、意外性が段違いですから。
面白くなりそうな余白はあったんですが、残念ながらおいしく煮込むことができなかった一作。
また別の映画で会おう、ナオミ・ワッツ、今回のことは早めに忘れることにします。