アメリカ 2020
監督 デヴィッド・フィンチャー
脚本 ジャック・フィンチャー
不朽の名作と名高い「市民ケーン」の脚本を担当したハーマン・J・マンキウィッツの、シナリオ執筆当時を描いた実話もの。
ちなみにこの映画のシナリオを書いたのは、フィンチャーの父親で新聞記者だったジャック。
すでに亡くなられてるんですが、映画化を願っていたそうで、実の息子がその悲願を果たした形、ですね。
30年越しにようやく日の目をみた企画らしいんですが、そういう裏話を聞くと現代におけるサブスクの功績も馬鹿にできないなあ、と思いますね。
アルフォンソ・キュアロンのROMA/ローマ(2018)もそうだと思うんですが、マーベル映画全盛の昨今、この手の趣味的な白黒映画に資金を出す制作会社がそうたくさんあるとも思えなくて。
ましてや監督ならではのこだわり(モノラルだったり)があれこれあるわけですから。
NETFLIXが映画業界の何を破壊してしまったか、その功罪を無視することはできないと思うんですが、少なくともこういう映画を世に出せるのなら存在価値はあった、と思いますね。
ま、地味でマニアックな映画なんですけどね、映画好きならヒーロー映画ばかりじゃなくて、たまにはこういうのも見ておいた方がいい。
で、作品の題材となってる「市民ケーン」なんですけど、見てなくとも物語は理解できますが、どっちかと言えば先に見ておいたほうがより理解度、共感は深まると思います。
なんせ市民ケーンで断罪されていた新聞王チャールズ・フォスター・ケーンのモデルとなった人物が物語には登場しますから。
それを知っているとマンク(ハーマン・J・マンキウィッツ)と新聞王ウィリアム・ハーストの丁々発止なやり取りが俄然興味深く映ってくる。
私は20代前半ぐらいで「市民ケーン」を見たんで、正直あんまり記憶に残ってないんですけど(若い頃は結構なバカだったんでぴんとこなかった、というのもある)それでもつきあいのある人物をあんな風にシナリオでキャラ付けしてしまうマンクの反骨心には感心させられましたね。
一見、どうしようもないアル中で、誰にでも愛想の良い道化のように見えるんですが、内面は多層的でゆるぎない信念を持つ人物としてマンクを映画に登場させたのはユニークな着眼点だった、と思います。
みんなオーソン・ウェルズ(市民ケーンの監督)のことは知っていても、ハーマン・J・マンキウィッツなんて特に日本人は全然馴染みないですしね。
また、ゲイリー・オールドマンがこの複雑な性格を有するマンクを実に巧みに演じてまして。
どう考えても面倒くさい男なんですけどね、どこか愛嬌があるように感じるのは間違いなくオールドマンの功績。
市民ケーン制作秘話、みたいな感じで捉えても面白いと思いますね。
当時のMGMの社長とかも出てくるんで(これがまた強烈にアクの強い人物)コーエン兄弟のヘイル、シーザー(2016)とかお好きなマニアには刺さるんじゃないでしょうかね。
しかし、フィンチャーがこういう映画を撮るとはなあ。
過去にザッカーバーグの自伝みたいな映画も撮ってたから、できなくはないんでしょうけど。
監督らしくないノスタルジアが、どこか心地よい一作ではありましたね。
大人の映画ファンのための一本。
おそらく、大きく脚色してる部分もたくさんあるんでしょうけど、それ込みでマンクの型破りな生き様には今にない痛快さを感じたりしました。