マザーズ

デンマーク/スウェーデン 2016
監督 アリ・アッバシ
脚本 アリ・アッバシ、マレン・ルイーズ・ケーヌ

人里離れた山奥で暮らす裕福な夫妻に代理母を頼まれたハウスキーパーの女性を襲う、不可解な事象を描いたホラー。

監督は異色作、ボーダー 二つの世界(2019)を撮ったアリ・アッバシ。

あの強烈な世界観と気味悪さは未だはっきりと私の記憶に残っております。

本作は、ボーダーを撮る以前に手掛けられた長編デビュー作らしいんですが、ボーダーほどではないにせよとかく不気味で不穏、というのがいかにも監督らしいなと思いましたね。

物語前半はね、どっちかというとのどかな感じなんです。

山奥に暮らす夫妻がひどく変わり者で、貧しいハウスキーパーの女性がひどい目に会うのかな?なんて想像してたりもしてたんですけど、そうでもない。

そんなによくある話でもないな、と思ったのが、子供の出来ない夫妻のためにハウスキーパーの女性が代理母を頼まれるくだりなんですけど、まあこれもケースバイケースかな、と。

利害が一致すりゃそういうこともあるだろうと。

で、私はこの「代理母」ってのが絶対キーワードだろうな、と思ってたんですよ。

代理母を引き受けたことが何かを引き起こすに違いない、と考えてたんですけど、意外にもそれがあんまり重視されてる形跡はなくて。

ひとつのきっかけにはなってるんですけど。

なんかね、ハウスキーパーの女性がただただ一方的におかしくなっていくんです。

思わせぶりでスピリチュアルなシークエンスがあるんで、なんとなく想像できたりはするんですが、要因がいつまでたってもはっきりしないものだからどうにも薄気味悪くて。

怖さが袋小路なまま、おんなじところをずっとウロウロしてるんですよね。

しかし、狂気に囚われた妊婦の姿がこうも忌まわしいとは思わなかったですね。

これは私が男性だから余計にそう思うのかもしれませんけど。

ひょっとして、男性側(夫側)から見た初めての実子に抱く感情を、ディフォルメして可視化したのかなあ、などとも考えたり。

男性が実子を自分の子供として本当にかわいいと思えるまで、数年を必要とするらしいですから。

生まれたばかりの赤子なんて、男から見れば怪物ですよ。

言葉は通じないわ、泣きわめくわ、寝かせてくれないわ、猿みたいだわ、で。

それをこういう形で表現したのかなあ、と。

けど、それにしちゃあ赤子の禍々しさが全方位すぎるな、と。

ローズマリーの赤ちゃん(1968)との共通項を指摘する人なんかもひょっとしたらいるかもしれない。

ただこの作品ってね、エンディングでどこにも着地しないんですよ。

謎が明かされることは一切ない。

なのでローズマリーの赤ちゃんのように、ラスト数秒のシーンでひっくり返されることもない。

ぶった切ってしまうなら、消化不良で片付けてしまうのが一番楽かもしれないですね。

宗教的な背景がある、と考えるのも面倒くさくなくていいかも。

問題は、そんな感じで切り捨ててしまっていいのか?と思える「含み」がこの作品にはあることでしょうね。

いつもの私なら、この手の映画で真意を探ったりはしないんですけど、本当にそれでいいのか?と、後ろ髪ひかれたりもして。

長編デビュー作から一筋縄でいかないアリ・アッバシ、解釈は様々でしょうけど、なんか爪痕残すなあ、って思いましたね。

ボーダーほどのインパクトはないですが、監督のことが気になってる人はチェックしてみてもいいかもしれません。

タイトルとURLをコピーしました