アラビアンナイト 三千年の願い

オーストラリア/アメリカ 2022
監督 ジョージ・ミラー
原作 A・S・バイアット

イギリスの作家、A・S・バイアットのおとぎ話を映像化した一作。

ランプの魔人(ジン)が登場するので、おそらく底本はアラビアンナイトかと思われるのですが、詳しくないんでどこをどのようにアレンジ、改変したのかはわからず。

ランプの魔人が煙ともに現れて「お前の願いを3つ叶えてやろう」っておなじみのパターンで主人公に迫るので、お話の内容的には詳しく知らなくとも充分ついていけるかとは思うんですけどね。

従来のアラビアンナイトと違うのは、主人公が壮年の物語研究者(女性)で、格段叶えたい願望を心に秘めておらず、そのため、ランプの魔人が自分語りをする羽目になる展開でしょうか。

なんせ主役がくせ者ティルダ・スウィントンでランプの魔人がイドリス・エルバですから、二人の演技巧者のやりとりを見てるだけで楽しめる、ってのはありました。

ランプの魔人は早く願いを言ってほしい、でも主人公は数千年に渡るランプの魔人の冒険譚(人生模様?)をもっと話してほしい、落とし所の見当たらない噛み合わぬ二人の会話劇と古代エジプトにまで時間を遡る魔人のエピソードの数々にぐいぐい引き込まれていったことは確かですね。

ただね、欲を言うなら露骨にファンタジーなんだからもっとケレン味や遊び心があってもよかった、というのは正直あった。

特別なにかにこだわってるわけでもないんですね。

比較的史実に忠実に、当時の文化や風俗(昔語りの場面)を当たり障りなく再現してみました、って感じで。

これをギレルモ・デル・トロやターセム・シンがやってたら、多分全然違ってたと思うんですよ。

古代のシーンだけで映画一本撮れるぐらいのこだわりを、きっと発揮してくれたろうに違いないと思う。

マッドマックス怒りのデスロード(2015)で、あれほどの型破りとハッタリをかましたジョージ・ミラーがこんな風にこじんまりと収まっちゃうの?って感じではありました。

まあ、アラビアンナイトとマッドマックスじゃ素材の料理の仕方からして違う、ということなのかもしれませんけど。

あと、よろしくなかったのが、終盤の展開。

詳しくは書きませんけど、なぜかラブロマンスになっちゃうんですよ、アラビアンナイトが。

で、ジョージ・ミラーは、申し訳ないけど恋愛ものを情感豊かに、心細やかに描くということができない。

キャリアのある人なんで過去にはできてたのかもしれないけど(私はマッドマックス以外知らないんで)少なくとも今はできてない。

大人の恋愛模様を描写しなきゃいけないはずなんですけどね、大人どころか途中から魔人ジンの人格が真っ白になっちゃうんですよね。

何を考えてるのかわからないばかりか、どうしてそうしているのかすら不明。

えっ、これは誰にとって得な状況なんだ?と悩んでしまうほどに、とってつけたような愛を育む場面ばかりが連続。

多分原作はこんな感じじゃないんだろうなあ、と思います。

おそらく映像化する過程でなにかが抜け落ちたか、大事な演出を改変しちゃったんだろうな、と。

ラストシーンから類推するに、やりたかったことはわかるんですよ、で、できる人が撮ってたら多分感涙ものの名作になってた気もするんです、だけど悲しいかな、徹底的に上滑りしてる。

うーん、向いてない気がするぞ、ジョージ・ミラー、この手の映画に。

まあ、御年78歳ですしね、まだやれた方だろう、と考えるのが正しいのかもしれませんが。

シナリオとか起承転結とかあんまり考えずに好き勝手やるのが一番ハマるんじゃないか、と思いますね、この人の場合。

70歳超えてアナーキー、ってのもすごい話ですけど怒りのデスロードが熱狂的に受け入れられた理由ってそこでしょうしね。

ジョージ・ミラーに誰もこんな映画は望んでない気がするんですけど、私だけ?

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