2022 アメリカ
監督、脚本 ベス・デ・アラウージョ
異人種への偏見を持つ白人女性が、同じ考えを持つ数人と意気投合したことで気持ちが大きくなってしまい、挙げ句、取り返しのつかない事件に手を染めてしまうスリラー。
多様性が声高に叫ばれる昨今であるからこそ、時代性を如実に反映した一作、といっていいように思います。
これを東洋系の混血である女性監督が、自ら資金を調達して完成にこぎつけた意欲、その勇気は賞賛に値すると思います。
長編デビュー作でこんなの撮っちゃったら間違いなくある種のレッテル貼られちゃうと思いますしね、それがアメリカ社会ならなおさら。
この映画を通して、差別を世に問いたい、とした心意気は評価したいですね。
ただね、全編ワンショット撮影を選択したこと等の飽きさせない工夫は買うにせよ、ちょっと脚本が弱いかな、という気がしなくもなくて。
一番致命的だったのは、私達はもっと認められていいはずだ、不遇だ、と声高に叫ぶ「アーリア人団結を目指すおばさんたちの集団」が、どう見てもあんまり頭良さそうじゃないこと。
というか、どっちかというとかなり頭が悪い。
いや、それって、人種がどうのこうのというより、あなた個人の自助努力の問題でしょ?と言いたくなるような個人的エピソードが不満の核になっててですね。
単一国家民族の国に暮らす日本人には測りかねる部分もあるのかもしれませんが、お前ら既得権益(これまでの豊かさ)が損なわれることを恐れるだけの役人と変わらねえじゃねえかよ、と言いたくなるような愚かさを露呈していて。
なんつーかね、全く共感できないんですよね。
心理構造が、俺たちが普通に暮らしていけなくて貧乏なのは老人ばかりが優遇されてるせいだ、奪って何が悪い、とばかりにオヤジ狩りやオレオレ詐欺へ精をだすヤンキー(半グレ?)集団のようでね。
いや、そんな単純な問題じゃないでしょ?って。
特に後半の展開なんて、やさぐれた不良どもの発想、そのまんまでして。
たとえ異人種を不愉快に感じていても、一人でも常識人がいれば「あんな馬鹿なこと」はやらない、と思うんですよね。
なぜ誰も止めない、と私は不思議でならなかった。
そういう意味で、ちょっと頭の弱い人達の暴挙を描いた内容になってて、そこに大意が見いだせなくなってる。
やはりマイノリティへの偏見を弾劾したいのであれば、白人であるおばさんたちと、標的になってしまったアジア人親子との相容れなさ、価値観および文化の違い、葛藤、衝突をもっと丁寧に描かなきゃいけなかったと思うんですよね。
お互いに小さな実害を被ってて、お互いに譲歩もしてるんだけど、それでもわかりあえなかった、ってことなら悲劇の結末も大きな意味をもっただろうと思うんです。
我々はそれでも共存していく道を、知恵と慈愛でもって模索していかねばならない、と強く戒める内容になったはず。
現状、馬鹿な白人が、考えなしに暴れてありゃ大変!ってだけの映画ですしね。
ま、白人はこの程度のことで暴走するんだ、って言いたかったのかもしれませんが、それって逆差別でしかないし、そこから根本的な解決には到底至らないでしょうしねえ。
どうせなら徹底的な怪物としての白人女性像の構築を試みたほうが良かったかもしれないですね。
そしたらゲット・アウト(2017)みたいにエンタメと、深いテーマの同居も可能だったかもしれない。
監督はきっと真面目な人なんでしょうね。
次に期待。
写実的な路線に舵を切ったほうがいいかもしれないですね、ベス。