中国 2021
監督 チャン・イーモウ
脚本 チャン・イーモウ、チュアン・ヨンシェン
満州国が中国に存在していた1934年、特殊工作員4名と満州国秘密警察の「極秘作戦ウートラ計画」を巡る攻防を描くスパイ活劇。
中国映画で日中戦争前夜で満州国ですから、さぞや反日で、日本人は人の心を持たぬ悪鬼のように描かれてるんだろうな、と見る前から覚悟してたんですが、そこは思ってたほどではなかったですね。
ま、高科長役のオッサンは猜疑心の塊で腹心の部下といえども全く信用してないちょー嫌な人物として描かれてましたが、秘密警察だったらならそんなもんかな、と。
差別感情丸出しの、どう見ても精神病んでるとしか思えない、いわば物語を盛り上げるための焚き付け役的な日本人はほぼ登場せず。
なんせ巨匠チャン・イーモウですから、そこは当時の社会情勢、世情からあまり逸脱しすぎないように配慮したのかもしれません。
近作、SHADOW/影武者(2018)に比べるとアクションファンタジー的エンタメ度は低く、現実味を重視したっぽい。
で、それが、見てて今ひとつテンション上がりきらない要因にもなってまして。
群像劇なんですけどね、誰に目線を合わせりゃいいのかわかんないところがあって。
というかそれ以前の問題として、みんな似たような背格好で同じような服装なんで、中盤ぐらいまで「誰が誰なんだか視認できなくて」ですね。
かろうじて男女の区別はつきますが、他は会話の内容から登場人物を特定するしかない。
同じ有色人種である私がそうなんだから、これ、西洋人がみたら全部同じに見えると思う。
なんせスパイなわけだから目立ってはいけないし、あえて没個性にしたのも監督の意図なのかもしれませんが、これはねー、なんともまどろっこしいし不利だと思うんですよね。
単純に集中できないんですよ「えーと、これ誰だっけな・・」とか見ながらやってると。
その上で主人公不在ですから。
物語は緻密で、シナリオは予想を裏切って紆余曲折していく実に緊張感あるものなんですが、肝心のキャラクターがね、全くストーリーの前面に浮かび上がってこないんですよね。
ようやく人物が脚光を浴びだすのは特務警察のナンバー2とおぼしき周乙が登場してから。
いやもうね、全体をじっくり俯瞰しすぎなんじゃねえか、と思うわけですよ。
これ、最初から周乙の目線で描かれてたらダブルスパイものの傑作になったのでは、という気がしますね。
秘密工作員がパラシュートで落下とか、雪山を徒歩で強行軍とか、見終わってから振り返るなら、全部不要なシーンですもん。
スパイ活動に命を賭す工作員たちの儚さ、みたいなものをきっと描写したかったんでしょうけど、それは多分周乙の視線で語ることもきっと可能だったし、物語の着地点から考えるならその方が全体的にスッキリしたような気がするんですよね。
相変わらず映像の色使いは鮮やかですし、破綻なく最後まで見せつける力量は巨匠の名に恥じぬものだと思いますが、今回はちょっとよくばりすぎたかな、と。
終盤のカーチェィスとか動的な魅力も少なからずあるんですけどね、どこかぼんやりした印象しか残らない感じなのが残念。
古今東西にスパイ映画が大量に存在する中、満州国という特殊な舞台を選択した割には頭一つ抜けなかったな、と。
監督らしい作品だと思うし、嫌いではないんですけどね。
ま、中国映画は検閲があるからあんまり額面通り受け取ってはいけないのかもしれませんけど。
あと、スパイ役で登場してたリウ・ハオツンが異様に可愛くて、なんでこの役柄?と思った。
どう見てもソビエトで訓練を積んだ特殊工作員に見えない。
なんかおかしな圧力働いてるのか、ひょっとして。