中国 2018
監督、脚本 チャン・イーモウ
三国志のエピソード「荊州争奪戦」をアレンジして物語の骨子とした武侠時代劇。
ああ、私の知ってるチャン・イーモウが帰ってきた、と思いましたね。
彼の作品をすべて見ているわけではありませんが、少なくともこの映画にはHERO(2003)やLOVERS(2004)と同じ匂いを嗅ぎ取ることができる。
いやほら、前作がアレだったものだから。
グレートウォール(2016)のことなんですけどね。
堕落とまでは言いませんけど、本当にこれでいいと思ってるなら君に対する見方が確実に変わる、とあたしゃ思ったものだからさ。
ま、あの映画はあの映画でいいんでしょうけどね、宝の持ち腐れ的な側面をファンなら感じたはずでしょうし。
やはりチャン・イーモウといえば、こだわりの映像と細やかな心理描写だと思うんで。
それを総括して私は「美意識」と認識してるんですけど、もうね、序盤から監督らしさ、炸裂してます。
青みがかかった淡い濃淡をフィルタリングした映像は幻想的で水墨画のようですし、運命に翻弄され、ある武官の替え玉として生きるしかなかった主人公の悲哀は、待ち受ける激動のストーリー展開を早々と予感させる。
アクションシーンの演出にも余念がない。
敵の長刀(薙刀?)に何で対抗するか?と考えたとき、傘を思い浮かべる人はまず居ない、と思うんですよ。
傘の骨に漫画みたいな小細工をしたのはちょっとやりすぎか、と思わなくはないですが、剛の剣撃を柔の回転で受け流す決闘シーンはまるで「舞い」を見てるかのような美しさがあって。
勝負を決するのが「たわみ」であったことにも舌を巻いた。
香港カンフー映画に足りないのはこれだよ!と私は声を上げましたね。
エキサイティングなシーンですら、即物的に痛みを伝えるだけでなく、優美さを念頭に置いたこだわりがあるんです。
終盤の二転三転する物語構成も圧巻の一言。
なにがどうなってどうオチがつくのか、寸分の油断も出来ない。
王国内部の権力争いを描いた謀略サスペンスとして見ても見応え充分。
またラストシーンが思わせぶりで。
都督の妻は、その先に何を見ていたのか、いったいなにをどうしようと思ったのか?
余韻があとを引く、とはまさにこのこと。
あそこでシーンをぶった切るのか、と唸らされることしきり。
もう、満腹ですね。
登場人物それぞれの思いに想像を巡らせるだけで116分、あっという間。
ま、太極図をやたらあちこちで引用したりとか、合奏シーンと対決シーンをシンクロさせる等、ちょっと大きく振りかぶりすぎ、と思える部分もあるんですけど、御年70歳でここまでやってくれたら文句ないです。
チャン・イーモウ健在を印象づけた大作エンターティメントだと思いますね。
余談ですが、どことなく往年の白土三平の忍者漫画を思い起こさせるところがあるなあ、と私は思ったり。
忍者武芸帳とかね。
あの頃の創作における熱量、活気を、どこか私は再体験している気になってるのかもしれません。
あと、副題の影武者なんですけど、日本人はどうしたって黒澤明の影武者(1980)が脳裏をよぎると思うんであんまりよくない、と思うんですが、どうでしょうね?