フランス/アメリカ 2021
監督 アレクサンドル・アジャ
脚本 クリスティ・ルブラン

ふと目覚めると、全身を器具に固定されベッドに横たわった自分が居た。
胸元や手足に這いずりまわる医療用のチューブ、ここはどこ?助けて!と声を上げると、医療用インターフェースが反応、酸素の残量は残り34%です。
どうやら彼女はコールドスリープの最中にポッドの中で計画外に目覚めてしまったよう・・・ってな滑り出しのシチュエーションスリラー。
閉鎖空間でにっちもさっちもいかずに一人悪戦苦闘する映画、というと過去にも色々あったような気がするんですが、すまん、のきなみタイトル忘れた。
ライアン・レイノルズが一人芝居で乗り切るリミット(2009)というスペイン映画が土中の棺桶で目覚めるというシチュエーションなんで、似てるかもしれません。
見たのが昔過ぎてもう内容忘れちゃったけど。
どうあれ、この手の映画って、奇抜なアイディアとシナリオの緻密さがすべてというか。
絵面に変化がない分、ストーリー進行が陳腐だと誰も見てくれないわけですよ。
しかしNETFLIXでこんな低予算映画みたいな挑戦しなくてもなあ、制作費の心配しなくてもよさそうなもんだけどなあ、と思いながら追ってたんですけど、なるほど資金は終盤に注ぎ込まれてました。
前半~中盤はほぼ前フリと思っていい。
ただね、それも最後まで見たからこそ言えることであって、無事オチまでたどり着けるだけの面白さを堅持していたか?というと、少々微妙だったかもしれないですね。
なんせ主人公、長期間のコールドスリープのせいか、記憶があいまいでところどころ飛んでるんですよ。
最初は自分が誰なのかすらわからない有様。
普通に考えて、難病を患ったんで未来の進歩した医療に期待をかけて眠ることを選択した、が納得の行く状況説明かと思うんですが、あんまり上手に騙してくれないんですよね、監督は。
主人公の過去を探ることと、状況把握を同時にやろうとするから、なんだかお話が堂々巡りになっちゃって。
挙げ句に、ようやく電話にて接触した外部の人間すら「信じられない」とくる。
過去なら過去、状況なら状況でどこかひとつに焦点を絞って、ああ、そりゃそうだよなあ、こういう状態ならそう考えるしかないだろうなあ、と観客を一方向にリードしてほしかった、と思いますね。
頭のてっぺんから爪先まで全部、どれが本当かわからないってやられてしまうと、だからなんなんだよ!どうしたいのよ!って感じでだんだん面倒くさくなってくるんですよね。
これは間違いなく真実、と思われるものをひとつでいいから混ぜておいてくれないと、とっかかりがなさすぎて集中できなくなる。
そんな散漫さをカバーするための酸素残量のスリルなんでしょうけど、これも「あら、意外にもつのね」って感じであんまり緊迫感はない。
ま、正直あんまりたいした顛末は待ち受けてなさそうだなあ、と思ってました、見始めて1時間ぐらいは。
そしたらですよ。
終盤で怒涛の巻き返しを見せつけるんですよね、この映画。
はい、そこのあなた、ちょっと微妙だな、と思ってもぜひ最後まで見てください。
もうね、全く印象変わるから。
いや、既視感がないとは言わない。
ないとは言わないが、密室からそういう形で世界に言及していくのか、と唸ったことは確か。
詳しいことは何も言えないんだけど、これSFじゃねえかよ!と私は後ずさったからね。
とりあえず酸素が足りなくなることが喫緊の課題なんだけど、それすら些末なことに思えてくるほど一気にスケールが拡大して視座が高みに達しますから。
まさかアジャがこんな映画を撮るなんて・・・と感嘆。
ああ、やっぱNETFLIXオリジナルだな、今回も痒いところに手が届かずだ、って言ってやろうと思ってたんですけど、途中までの至らなさとか全部吹き飛びましたね。
シナリオの勝利、でしょうね。
最近、こういう映画が少ない、ってのもあるでしょう。
真相へのストーリーの発展の仕方が柔軟な想像力を見せつけた予想外の一作。
NETFLIXオリジナルのどんでん返し系ではトップランクじゃないでしょうかね。
私はこの作品、かなり好きですね。
なんかSFが隆盛だった80~90年代を思い出したよ。
そういえばスターシップ9(2016)ってな映画もあったな・・。