フランス/ベルギー 2021
監督、脚本 ジュリア・デュクルノー
幼い頃に交通事故に合い、頭にチタンプレートを埋め込まれた女が辿る数奇な人生を描いた異色作。
前作、RAW少女のめざめ(2016)の頃からその傾向はありましたが、今回もどこかデヴィッド・クローネンバーグやリンチっぽい。
しかしこの作品がパルムドール受賞するんなら、クローネンバーグはとっくの昔にカンヌで受賞してなきゃおかしいだろうが!と思ったりもしたんですが、これも時代なんでしょうねえ。
一昔前のカンヌなら、こういう作品が最高賞を受賞するなんてありえなかった気がするんですけどね。
ま、やってることは早い話がクローネンバーグのクラッシュ(1996)です。
クラッシュのその先を描いたような気がしなくもありません。
クラッシュと違うのは、主人公の女が殺人に対する禁忌を全く持ち合わせていない点でしょうか。
いや、こんな設定にして大丈夫なのか?と見てて思ったんですけど(最後にまとめられるのか?と)物語は予想外の展開で観客を当惑させながら、紆余曲折の末、とんでもない場所に着地します。
全く予断を許さないという意味では実に見応えがありましたね。
ただね、私の場合、何を見落としていたのか、主人公の子供の男親が誰であるのかを完全に誤認識していたんですよね。
言われてみれば確かに親を示唆するシーンはあったんですけど、まさかそんな風に非現実な変化球を投げてくるとは思ってなかったもんだから。
クラッシュやんけ!と指摘しておきながら、全く想像が及んでなかったことは本当に恥ずかしい限りなんですけど。
なのでラストシーンも何が起こってるのか全くわからなかった。
なんなんだ、この異形っぷりは?!と頭の中ははてなマークだらけ。
それこそが物語のキモだったというのに。
認識を正して振り返るなら、監督は、女性の前に立ちはだかる性差という壁を、あらぬ方向から皮肉満載な形で風穴開けようとした、と言えなくもないように思います。
とりようによっては処女受胎とも考えられるあたりが、これまたなんとも。
半分以上が趣味、という気がしなくもないですけどね、なんせグロいし、エキセントリックだから。
なんともアナーキーな映画です。
前作、RAWはあんまり高く評価してなかった私ですが、今回は異端なりに精度上げてきたなって印象ですね。
もしクローネンバーグの次を見せてくれるようなことがあれば大化けすることもあるかもしれません。
決して広くはおすすめできないですが、往年の「寝てしまいそうになるカンヌ受賞作」とは一線を画する過激な一作だと思いますね。