イギリス 2021
監督 スティーブン・フィングルトン
脚本 ベン・コンウェイ
闇社会から足を洗おうと決心したドラッグディーラーが、様々な不測の事態に巻き込まれ、約束の時間に現金を用意することが難しくなり、殺されそうになる様子を94分ワンカットで撮ったクライム・サスペンス。
一番の売りは、言うまでもなく94分ワンカットで撮影した点なんですけど、これねえ、最初にやった奴は凄かったと思うんですよ、そりゃ間違いなくね。
でも残念ながら先達がいらっしゃいますし。
2015年にドイツのセバスチャン・ジッパーがヴィクトリアという作品で、すでに140分ワンカットの映画を発表してるんですよね。
同2021年にはボイリング・ポイント 沸騰という、同じく90分ワンカットの映画が公開されてますし(私は未見)。
多分遡って調べれば過去にも同じことをやった映画は絶対出てくるはず。
我も、我もとみんなが立て続けにやりだしたらね、それはもう売りじゃなくてジャンルになっちゃうと思うんですよね。
ジャンル化するってことは、ワンカット撮影が特段評価に繋がらなくなるのを意味してて。
そういう手法だよね、で済まされてしまう。
で、ワンカットじゃなきゃどうしてもダメだったの?って話にもなってくる。
そもそものプロット自体がありがち、ってのは間違いなくありますよね。
彼女のために、裏社会から足を洗おうとする男の話なんて、これまでいったい何本の映画でネタにされてきたよ・・・と思い返すのすら面倒なわけでね。
シナリオ進行も、ライターの緻密な計算があるのか、単なる思いつきなのかよくわからない部分がありますし。
主人公の命を狙う金貸しの手下の行動なんて、その最もたるものですね。
なんでそういう提案で指示になる?と、思考回路の筋道がどうにもはっきりと理解できない。
かと思えば主人公はとにかく電話ばっかりしてますしね。
もう、スマホにGoProでも接着しとけよ!と言いたくなるほど。
ま、ラストシーン間近のヒヤヒヤする展開は手に汗でよかったですけどね、けどこれをあえてワンカットでやらなきゃならんか?は、はなはだ疑問ですね。
プロットの手垢感、シナリオ進行の甘さを底上げするためのワンカットではなかったか?と思えて仕方がない。
だって何台かカメラ用意して普通に撮ったって、多分なんの違和感もなかったと思うんですよ、この内容ならね。
むしろ普通に撮ったほうがいいものが出来たような気さえする。
うーん、予算の問題で奇をてらった、ってことなんでしょうかねえ。
カメラワークはすごく工夫されてた、と思うんですが、あえてこのスタイルでやるなら、いっそのこと車中の密室劇にしてしまうぐらいの果敢なチャレンジが見てみたかったですね。
それなりに楽しめますが、もうちょっと違うところに心血注いでほしかった、というのが正直なところでしょうか。