イギリス/アメリカ 2021
監督 ダグ・リーマン
脚本 スティーブン・ナイト
コロナウイルスの影響によりロックダウン下にあるイギリスを舞台に、ある偶然から、300万ポンド相当のダイヤを疑われずに盗み出せてしまうことに気づいてしまった夫婦の葛藤を描く犯罪映画。
いわゆるオーシャンズ11(2001)とか、その手のケイパー・ムービーを期待すると若干の肩透かしをくらいます。
どっちかというと、倦怠期の夫婦のドラマ、と言ったほうが近いかもしれない。
一応、二人はもう別れることを決めているんですけどね、ロックダウン下ゆえにお互い身動きが取れない。
これまでの生活で色々と積み重なっていった不満が双方にあるんですが、最大の問題は旦那がコロナで失職、奥さんは支社のCEOを任されるほど成功しているけれど、仕事そのものに嫌気がさしていることにある。
物語の前半は、そんな夫婦の煮詰まったやりとりを延々描写してるんですが、まー長いです。
なんか別の映画を間違って見てるのか?と疑いたくなるほど長い。
でもってこの夫婦がまた、よくしゃべること、しゃべること。
こりゃ国民性の違いなのか?と訝しんでしまうほどのマシンガントークでして。
いや、普通は別れると決まってたらそんなにしゃべらないだろう、と思うんで。
密室劇を飽きさせない工夫なのかもしれませんが、私はなんだか戯曲を見てるような気になりましたね。
このまま最後まで会話劇で突っ走らんばかりの勢いなんですよ。
後から脚本がスティーブン・ナイトだったことを知って少し納得したりはしたんですけど、派手な泥棒映画を期待してた人は前半で見事に振り落とされるかもしれません。
物語がようやく動きだすのは後半。
上手かったのは、善人の逡巡、葛藤をほんとにギリギリまで引っ張ったことと、夫婦が一連の行動を共にした結果、何をそこに見出したのか、言外に含ませたこと。
終わってみれば、結局はこれ「男と女のドラマ」だったんだ、とふいに気づくあたりがしゃれてるんですよね。
なので「ロックダウンのロンドンを駆け巡り、300万ポンドのダイヤを盗み出せ」というキャッチコピーは、いささか誤解を招きかねないというか、いらぬ先入観を視聴者に与えてしまう勇み足な言質かもしれません。
大人の映画ですね。
最後まで見れば、なぜ前半にあれほどマシンガントークを繰り広げながらも厭味ったらしくゲスな感じにならなかったのか?が理解できるし、シナリオが緻密に設計されていたことがよくわかると思います。
若い人には全然響かない作品のような気がしなくもないんですが、私は久しぶりに良質な二人劇を見た気になりました(厳密には他にも登場人物いるんですけど)。
しかし予想外にアン・ハサウェイ、演技巧者でしたね。
私が知らないだけなんでしょうけど、ここまで達者な女優さんだとは思ってなかった。
見ごたえのある一作です。
腰を落ち着けてどうぞ。
ロックダウン下の他国の様子がのぞき見れる意味でも興味深い内容だと思いますね。
ちなみに2021年11月3日までレンタル専用です。