2021 アメリカ/イギリス
監督 ガイ・リッチー
脚本 ガイ・リッチー、アイバン・アトキンソン、マーン・デイビス
ジェイソン・ステイサムとガイ・リッチーが16年ぶりにタッグを組んだ、というだけで話題性充分ですが、むしろ私が興味深かったのは、おや、珍しく群像劇じゃないんだね、といった点。
ガイ・リッチーの場合、主人公は存在するものの、多種多様な登場人物の思惑が入り乱れて事態が二転三転、あれよあれよと思わぬ方向へと物語は錯綜する、ってのがいつもの手ですから。
16年間の間にすっかり大物になったステイサムですし、知名度に配慮して(もしくは一枚看板で充分銭が取れるという制作側の判断なのかも、と思ったり)スター映画を撮ろうとしてるのか?と懸念したりもしたんですけど、ちらっと調べてみたら今作、ブルー・レクイエム(2003)ってフランス映画のリメイクだった。
なるほど、コードネーム U.N.C.L.E.(2015)みたいなもの、ということだね、そりゃ群像劇もクソもないわ。
シャーロック・ホームズ(2009)しかり、リメイクにも定評のある監督ですから、まあ、おかしなことにはなるまい、と安心して見進めていったんですけど、これがね、なかなか手の内を明かしてくれなくて面白い。
相変わらずステイサム無双なのが、またこのパターンか、って感じではあるんですけど、ステイサム演じる主人公が出自も正体も明かしてくれないまま、謎の凄腕として現金輸送車警備の業務を粛々と遂行していくだけでストーリーが紡がれていくんで、先が全く見通せないんですよね。
しいては、主人公の行動原理が、何を規範としているのか?をもわかりづらくしており、それが安易な見通しを許してくれず。
いやそりゃクライムアクションなんだろうな、ってのはわかりますよ、ただクライムアクションといえど主人公が悪党なのかクズなのかジャンキーなのか変人なのか善人なのか正義の人なのかで全く色合いも違ってくるわけでね。
中盤ぐらいまでのミステリアスな構成はお見事だったと思いますね。
何が起こってもおかしくないシナリオの余白が強力な物語の推進力になってた、と思います。
私なんざ、色んなことを勘ぐりすぎて、途中で疲れてきちゃったほど。
ま、種を明かしてみれば至極シンプルな〇〇劇だったわけですけど、それをここまで引っ張ったこと自体、あたしゃ評価したい。
多くのリメイクって、みんな知ってるだろうから・・の前提で、せいぜい現代的味付けをする程度でお茶を濁してる、と思うんですよ。
で、それこそが工夫のなさであり、発想の貧弱さの露呈であって。
「みんなブルー・レクイエムなんてもう忘れてるでしょ?」という立ち位置から映画を再構成したガイ・リッチーはやはり一味違う、と思いますね。
種明かししてからの後半の進行も、刑事が潜入捜査をやってるような趣があって緊張感十分。
パズルのピースを埋めていくように時間軸を操る全体設計も相変わらずで良し。
この映画がつまらないと言ってる人、割と多いように思うんですけど「なんで?」と思いますね。
アクションスターのアイコンとして顔のない役柄の多いステイサムに、表情を肉付けた秀作だと思うんだがなあ。
ガイ・リッチーのファンなら満足の一作じゃないでしょうか。
いつものユーモアはいささか控えめではありますけどね。