コロンビア/タイ/イギリス/メキシコ/フランス/ドイツ/カタール 2021
監督、脚本 アピチャッポン・ウィーラセタクン
頭内爆発音症候群を患っているのではないか?(睡眠障害の一種)と疑われる女性の、過去を探る旅を描いた奇矯な一作。
そもそも頭内爆発音症候群って、なんやねん?って話なんですが、軽く調べた限りでは脳神経の誤作動が原因ではないか?と言われてるとか。
実際のところ、あんまりよくわかってません。
都合よく「ストレスでしょう」なんて言われたりしてる。
どうあれ馴染みがないのは確か。
少なくとも私はこれまで生きてきて「頭内爆発音症候群で悩んでる」という人の噂を聞いたことも無ければ出会ったことも無い。
なのでその辛さ、しんどさみたいなものは想像するしかないんですが、この作品の場合、そのあたりがあんまり患者の日常に寄り添ってなくてわかりにくい、というのがあって。
そもそも主人公、仕事してないっぽいんですよね。
自由に毎日ふらふらしてる。
いきなり頭の中で爆発音が鳴るから気持ちの休まる暇がない、というのはわかるんですが、そのくせ爆発音を音声データ化しようとわざわざ音響技師の元を訪れたりしてる。
余裕あるじゃねえかよ、って。
物語それぞれのエピソードがきちんと繋がってないのもわかりにくさを助長させる要因の一つ。
厳密に言うと「繋がってない」のではなく「どこまでが現実なのかわからない」なんですけどね。
例えば音響技師のエルナンは、あとあと「そんな人物はいない」と職場の人間に否定されるし。
入院してた妹は虚言癖並みに自分の言ったことを次から次へと否定していくし。
意味不明なシーンが時折挟み込まれたりするし(人がいなくなったりとか)。
すべてが曖昧模糊なんですよね。
さらにはこの監督、やたらと長回しが好きで。
フィリピンのラブ・ディアスかよ!ってなレベルで画角変わんないまま10分とかざらにあったりする。
スローシネマの薫陶をうけているということなのかもしれませんが、えっ、放送事故?もしくはプレイヤーの故障か?と焦るから、マジで。
というか曖昧模糊だわ、おんなじ構図で変化に乏しい場面が多いわで寝てほしいのかよ!って話で。
動画サイト等でファストムービーに慣れてる若い世代は間違いなく途中で見るのをやめる、と思いますね。
だってね、倍速で再生しても全然変わんないですよ、普通なら役者さんの動きとかに違和感出そうなものなのに。
もうこれ、逆に狙ってるのか?とさえ思いましたね、私は。
俺の映画は早送りしても無駄だよ~ひひひ、みたいな。
どんな監督なんだよ。
ただ、そんな単調さの渦中にあるがゆえか、実際に劇中で響き渡る頭内の爆発音は、なにか異様な緊張感、不穏さを喚起してましたね。
見ながら眠りそうになってるところに急にドーン!と来るからドキッとするんだよ。
それこそがまさに主人公の置かれた立場を追体験する、ということなのかもしれませんけど。
計算だったらすごいけど、多分違うんだろうなあ。
過分に実験映画的、と言ってもいいかもしれませんね。
で、驚きなのがオチ。
頭内の爆発音の正体が明かされるんですけど、正直仰天しましたね。
いやこれ、SFじゃねえかよ!と。
終盤までどこにもそんな気配がなかったものだから、あっけにとられた、といったほうが正確かもしれない。
私はてっきり他者の理解の及ばない隔絶された世界(幻聴)で、音を抱えて生きる女の生を問う映画なんだろうな、と思ってたものだからさ。
台詞回しも抽象的で観念的なものが多かったですしね。
まさかちゃんと因果が存在するだなんて思ってもみなかった。
ま、評価は割れそうな気がしますね。
結局よくわからない部分はわからないままだし。
それをオチにするってどうなの?って意見もあるだろうし。
私なんざ、昔の円谷プロかよ!(怪奇大作戦とかね)と思わなくもなかったですし。
そしてなにより、136分をこのオチのために乗り切るにはそれなりの努力が必要ですし(カフェイン摂取とか時々顔を洗いに行くとか)。
お好きな人たちのための一作、って感じですね。
どういう層がこの映画をお好きな人たちなのかはわからないが。