怪獣8号

2020年初出 松本直也
集英社ジャンプコミックス 1~3巻(以降続刊)

ジャンプコミックスを買うなんて、ほんと何年ぶりだろう・・・と、思わず遠い目をしてしまいそうになったりはしたんですが、なにげに読んでて、あれっ、これ、決して無駄遣いではなかったのでは・・・と思えてきたりもしたものだから自分でもびっくりだ。

いやね、私、集英社の漫画とは相性が悪くてですね。

ジャンプはもとより、ヤングもウルトラもSQも面白いと思った作品に出会ったことがなくて(子供の頃は楽しんでましたけどね)。

もちろんすべてをチェックしてるわけではないですが、集英社連載漫画ってね、そのどれもが作家性より、ヒットの方程式、編集部の育成方針、意向にとかく忠実な気がしてね、パッケージ商品としては完璧でも、はみ出してるもの、思わずこぼれ落ちちゃったものが皆無なように思えて仕方がなくて。

盛り付けも色味も味も完全にできあがってるんですけどね、マックや全国展開の牛丼店と同じで、どこで食っても全部同じなんですよね。

そこに辺境ならではの野趣あふるるアーティスト気質や、挑戦的な試み、埒外の奇跡的なバランス感覚なんかはほとんど見いだせない。

安定及び本道を行くことが悪いとは全く思わないし、それこそが漫画文化の屋台骨を支えていることは十分わかるんですけど、豪速球投手ばかりで成り立つゲームがシーズン通して楽しめるか?というと決してそうではないわけで。

何だこの球筋?!ってな異能の投手がすげえ防御率だったりするからこそ、じゃあ一度球場に足を運んでみるか、生で見てみたい、ってなるわけで。

私は自分のブロクでそういう異形、孤高に注目していきたい、と思ってるんですよね。

ま、一応、ヒット作はなるべく読むようにはしてるんですけどね、意固地なレトロマニアックになっちゃってもアレだし。

その上での集英社嫌いだったりはするんですけど。

そこはね、それなりに皆様の御理解をいただくとして。

で、だ。

前置きが長くなったんですが、本作、なにが私の琴線に触れたか、というと「怪獣」というワードに他なりません。

多分、本気で怪獣漫画を描いた漫画家って、私の記憶が確かなら、かつてアフタヌーンで連載された傑作、神の獣(1992)以降、登場してないように思うんですね(ハカイジュウなんてのもありましたけど、あれはちょっと違う気もするので)。

そりゃ世代的に怪獣、っていわれるとなんだかざわざわするものもあるわけで。

なにかあるんじゃないか、と。

とりあえず驚かされたのが、第一話、なんといきなり討伐された怪獣の死体処理の場面から物語が始まったこと。

ほとんどわかる人はいないと思うんですけど、これ、石川球太の傑作、巨人獣(1971)じゃん!とあたしゃ腰抜かした。

怪獣の出現が自然災害と同様に扱われる世界を、違和感なく成立させることがたった一話で片付いちゃってるんですよね。

誰かがいずれやるかも、と思ってたけど、あんたがそこに目をつけてきたか!って感じですよ。

間違いなくファンタジーなんですけど、ファンタジーを強引に現実へと振り向かせる決まり手を最初にお膳立てできてる。

等身大の人間が巨大な怪獣に挑んでいく展開もいい。

これ、進撃の巨人の影響が大きい気もしますけど、進撃は途中から何度読んでもどこまで話が進んだのか覚えられない状態になったので(私のこと)、優れた翻案、と捉えていいようにも思います。

ストーリーの進行に既視感があったりはするんですけどね、味方にも明かすことのできない秘密を主人公が抱えて、無辜の民の盾になるという筋立てが、ハラハラさせつつもヒロイックでいいし、なによりそれが32歳のおっさん、というのが上手い。

これね、夢破れた多くの人の共感を強く呼ぶ、と思うんですよね。

正義感あふるる高校生や美形の天才じゃだめなんですよ。

昨日まで怪獣の死体処理をしてた夢なきブルーワーカーだったからこそ、主人公の言葉は説得力を持つし、多少いってることがクサくても、そういいたくなるのはわかる・・・ってなる。

一巻最後のシーンなんて鳥肌立ちましたね。

か、かっこいい~と、鼻水出そうになった。

なるほどなあ、最初の設定、物語の構造、キャラの選定さえ類型に堕すことなく考えてやれば、あとはジャンプの黄金率「努力と友情とビクトリー」がこうも完璧にはまるのか、と。

なんとなく誰かが描いたあの漫画(もちろん集英社の)と似たような道を歩みそうな気配は濃厚なんですけどね、これは人気出るのもわかる、と納得ですね。

4巻早く読みたい、と思いましたもん。

もう少し細かく書き込んである絵のほうが好みですし、怪獣8号のデザインがゴーストライダーみたい、と思ったりもしますが、ジャンプ+、侮れんな、と思った1作でしたね。

あとはいかに物語世界の細部を現実味にこだわって補完していくか、でしょうね。

思わぬ場所で転んでしまわぬことだけを祈ります。

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