Mr.ノーバディ

アメリカ 2020
監督 イリヤ・ナイシュラー
脚本 デレク・コルスタッド

前情報無しで漠然とイメージしてたのは、かつてマイケル・ダグラスが主演して話題になったフォーリング・ダウン(1993)みたいな風なのかなあ、と。

あの頃よりずっと社会は生きにくく閉塞的になったことだし、21世紀にもう一度焼き直すのもありかもしれんな、などと考えていたんですが、いざ見終わってみたら全然違った。

いやこれ、一連のリーアム・ニーソン主演作とほぼ変わらんじゃねえかよ、って。

パパは元特殊工作員だった、元軍人だった、的な。

いつまでもリーアム・ニーソンに任せておくわけにいかない、と思ったのか、柳の下の二匹目のドジョウを狙ったのかわかりませんが、ぶっちゃけ、まだこの手のネタをやるのか、とは思いましたね。

ハードコア(2016)でビデオゲーム的一人称視点を野心的に映像化したイリヤ・ナイシュラー の2作目だとはとても思えん。

悪く言えば普通、控えめに言ってもよくあるアクション映画。

ただこの映画が、既出の類似作と違うのは、主人公ハッチのブチ切れる理由にさしたる正当性がない点。

家族がひどい目にあった、もしくは誘拐されたからやむを得ず、というわけではなく、もう、辛抱たまらなくなってつい手が出ちゃった、ってのが自分に正直でよろしい、というか、なんか笑えてくる、というか。

大義名分が存在しない分、どこかコメディっぽい雰囲気もあって。

結局、硝煙の匂いと暴力沙汰にまみれた過去が、実は水に合ってた、と再認識する壊れた男のカタルシスを描いた作品だったりするんですね。

ある意味、潔いな、とは思います。

家族愛だの、復讐だのと、ベタベタしてない分、余計なことを考えずに楽しめる爽快感、バカバカしさは間違いなくある。

元CIAの会計士と呼ばれた男だった、というのもうまい設定だったと思います。

会計士というのはCIAにおける荒事専門の工作員の暗黙の符牒らしくて。

一体どれほどのことをやれる人物なんだ?と俄然想像が膨らみますよね。

主演をつとめたボブ・オデンカークも還暦間近ながらシャープなアクションを披露していて良。

私は彼のことを殆ど知らないんですけど、カット割りの少ない長回しな格闘シーンでこれだけ動けたら上等だと思いますね。

調べたところによると2017年からこの映画のためにトレーニングを積んできたんだとか。

なかなかできることじゃないと思うんですよ、たとえ仕事といえど。

誰とは言わないけれど、CGやスタントマン頼りな某若手俳優に爪の垢を煎じて飲ませてやりたいほどだ。

ま、シナリオそのものはさして特筆する部分もなく、概ね予想通りの展開を見せるんで、題材の既視感も相まって強く印象に残るものは少なかったりはするんですが、シンプルに派手なバイオレンス映画として見るなら及第点だと思いますね。

なによりボブの老骨に鞭打った頑張りに一票、といったところでしょうか。

こういう映画って、続編があったら得てしてつい手が出ちゃうんですよね。

ドラマ性や意外性に大きく期待してはいけませんが、ボブという壮年のアクション俳優を新たに生み出したという意味では注目作かもしれません。

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