アメリカ 2020
監督 デリック・ボルテ
脚本 カール・エルスワース

タイムリーというか、世相を反映した巧みな邦題だ、というべきなんでしょうかね?これ。
原題はunhingedなんで、例によって全く意味合いは違うわけですが、あおり運転が社会問題化している昨今の日本においては衆目を集めそうなタイトルだな、とは思います。
実際、作中では確かにアオラレちゃってるし、主人公の女性。
ま、やってることはスピルバーグの出世作、激突!(1971)と殆ど変わらないわけですけど、激突!がトレーラーの運転手の顔を徹底して映さなかったの対し、本作では最初からラッセル・クロウ、身バレしているのが現代的、といえばそうなんでしょうかね。
日本で起こったあおり運転事件も、犯人はカメラの有無に関わらず顔を晒してましたしねえ。
ああ、この映画の犯人も同様に阿呆なんだなあ、と。
ほんと居るんだよ、車のハンドル握ると性格変わっちゃうやつ・・・などと妙に納得したりもしたわけですが、スリラー映画の轍を忠実に踏襲して犯人の行動がどんどんエスカレートしていってしまうのが難といえば難。
自暴自棄になっちゃってるのはわかるんですけどね、さすがにこりゃやりすぎだろうと。
きっかけはたった一度のクラクションなんですけど、それだけのことでここまでやるか?みたいな。
ほとんどサイコパスの領域。
こいつは車のトラブルのみならず、日常のささいなことでもきっと簡単にブチ切れて凶行に及ぶんだろうな、と思えてしまうほど。
そういう意味ではアオラレというより、犯人の異常性に着目したサイコホラーといったほうが良いかもしれない。
もうね、理不尽極まりないんですよ。
お前はどこの武闘派ヤクザなんだ、ってレベルで家族にまで手を伸ばしてきますから。
で、そこまでやるんであればね、犯人の異常性が際立つ内面の描写や、その生い立ちをもっと丁寧に掘り下げていかなきゃならない。
偶然出くわした人物が狂える殺人鬼みたいな野郎でした、では「運が悪かったんだね」で終わりな話であって、作品のテーマ自体がうすらぼんやりとしてしまう。
ラストシーンで、車社会におけるマナー問題を改めて提起する、みたいな結びが待ち受けてましたけど、公安委員会の教育ビデオじゃねえんだから、たったそれだけのことを強く印象づけるためにここまで風呂敷広げるか?と思わなくもなくて。
エンタメにしちゃあ落とし所が説教臭いんですよね。
説教したいのならもう少しリアリティにこだわってお話を展開させんかい!と。
きっと制作者側は、みんなで思いやろうよ、みたいな場所に着地したかったんでしょうけど、血しぶき飛ばしながらやるかやられるかのバトルのあとで思いやりもクソもないわけであって。
どうせなら突き抜けてほしかったですね。
小さくまとまってしまうのではなくて、別のあおり運転にまた巻き込まれた、みたいなオチだったら恐怖も倍増、車の運転ってほんと怖い、と強く思えたかも。
ラッセル・クロウの気を吐いた演技のおかげで最後まで見てられますが、ありがちなB級スラッシャムービー、と言ってしまえばそれまでかも。
夜中に酒飲みながら深夜テレビでぼーっと見る分にはいいかもしれません。