アメリカ 2020
監督 テイト・テイラー
脚本 マシュー・ニュートン
いわゆる女殺し屋の物語であって、はっきり言ってもはやジャンル化というか、ある種定番と化した節さえある題材なわけですが、これが予想を裏切ってそれなりの仕上がりなものだからびっくり。
アクションに特化していないのが良かったのかもしれません。
もちろんそれなりに見せ場はあるんですけど(ジェスカ・チャステインがマジで体張ってます)、重きが置かれているのは主人公エヴァの内面であり、一人の女性としての生き様だったりするんですね。
そこはさすがテイト・テイラー、通り一遍な殺し屋映画は撮らない、といったところでしょうか。
ガール・オン・ザ・トレイン(2016)でアル中のストーカー女を生々しく写実的に描いただけのことはある。
私が面白いな、と思ったのはエヴァ本人が、自分が気づいていない部分で殺し屋稼業に「倦んでいる」ように見える描写を冒頭から挟み込んできた点。
これはわかりやすいアクション/バイオレンスには絶対ならんな、と予感させるものがあるんですよね。
殺し屋の女の家族の物語に大きく尺を割いたのも新鮮だった、と思います。
無慈悲な暴力を行使する冷酷さの裏側に、普通に母がいて、妹がいて、元カレなんかもいて、完全に過去の軛から逃れられているわけではない、としたストーリー進行はエヴァを血の通う存在として感情移入しやすいキャラクターにしてましたね。
よくありがちな、女だてらに無敵なスーパーヒロインじゃないんですよ。
特に、元カレに「ある話」をもちかけるシーンなんて、これはちょっとすごいな、と舌を巻いた。
アクション映画でこういうことをやるセンスに感心した、というか。
ここでエヴァの「女」を、なりふりかまわず見せつけるのか、と。
また、ジョン・マルコビッチがいい演技してまして。
ぶっちゃけエヴァが属する組織の「リアリティの無さ」みたいなものが、私は中盤ぐらいから少々気にかかってたんですけど、それもジョンのどこまで本気なのかよくわからない腹の読めない演技で帳消し。
すぐれた役者が脚本の出来以上の真実味を物語にもたらすこともあるんだなあ、と。
多くの死をもたらしてきた女が、その罪深さ故に薄らいでしまった生への希求を、死に直面することで蘇らせる終盤の場面もいい。
それでも生きていくしかない、という諦めにも似た諦観が伝わってくる殺し屋映画なんてなかなかないと思うんですよね。
シンプルに強い女のカタルシスを求める人にとっては的外れな映画だと感じられるかもしれませんが、私はアクションを支えるドラマの濃厚さが素晴らしいと思いましたね。
リュック・ベッソンじゃあ、こうはいかんぞ。
それにしてもテイト・テイラーは壊れそうな女を描くのが本当にうまいな。
男性監督とは思えん。
ラストシーンのやるせなさ、想像をかきたてる演出も上手。
日本じゃあまり高く評価されてないみたいですけど、私は似た内容の殺し屋映画の中じゃあ頭一つ抜けてるように感じました。
ありきたりな派手さにはもう飽きた、ってな人におすすめ。