るろうに剣心 最終章 The Beginning

日本 2021
監督、脚本 大友啓史
原作 和月伸宏

全5部作のラストを飾る一作を、主人公剣心の拭い去ることのできぬ痛ましい過去である「人斬り抜刀斎」時代を描いてシリーズ完結とする、と言う構成は見事だった、と思いますね。

日本の場合、多くの人が物語の前日譚、過去談に強い興味を持たないことは数字が証明してますから。

それをあえて逆手に取ってThe finalとほぼ同時公開、作中で進む時計の針が過去とリンクするシナリオとしたのは冒険であり、英断だったと言えるでしょう。

それなりの成績を叩き出したのは企画力のなす技であり、制作陣の「るろうに剣心」に対する本気度が実を結んだ結果だと断じて間違いない。

私が感心したのは監督が作風すら微妙に変えてきてる点ですね。

徹底したドラマ重視。

映像の光度を抑えて、さりげない風景や家屋の陰影にも気を配り、台詞の間やテンポも古き良き時代劇を意識してる節がある。

派手なチャンバラだけでなく、ドラマでもきっちり見せますよ、という覚悟の現れでしょうね。

過去4作を、もしネオ時代劇と呼ぶなら、最終作は温故知新な本格派と言ってよく、そこに好感をもったのは確か。

ただね、器が素晴らしくても盛り付けられた料理はどうなのか?というと、そこはやっぱり少年漫画原作なんで。

ああ、もう少し時代背景をきっちり描いてくれてたら、とか、幕末動乱期の幕閣の要人や倒幕派の心情をじっくりと追えなかった(短いカットでいいから)ものか、といった不満はどうしたって残る。

桂小五郎や新選組が登場するんですけどね、歴史上の人物(集団)以上の意味づけがなされてないんですよね。

なのでなぜ剣心が桂小五郎にあそこまで心酔してたのかがよくわからないし、新時代を勝ち取るための暗殺者として自分の手を汚し続けたのかがちゃんと伝わってこない。

相当な決意がなければあそこまで無差別に人を切り続けることなんてできなかった、と思うんですよ。

そこがストンと抜け落ちちゃってるから、下手すりゃ「こいつは無口なサイコパスなのか?」などといった穿った見方すらできてしまう。

剣心の暗殺者としての覚悟をゆさぶるヒロインである雪代巴の存在にしたってそう。

いわゆるガチガチな原理主義者みたいなものなわけですよ、人斬り抜刀斎って。

その抜刀斎に対して「ここにいる全ての人には大切な人がいる。平和のための戦いというものが本当にあるのでしょうか。世のためなら犠牲が出ることは致し方ないことなのでしょうか」などといったうす甘いヒューマニズムで異臭を放つようなセリフを雪代は本気で吐いたりするんですよね。

いやいや、お前はいったい今までどこで優雅に暮らしてたお嬢様なのか、と。

頭の中、お花畑じゃねえかよ、って。

ま、剣心、ゆらいじゃうんですけどね。

えっ、ゆらぐのか?マジで?!みたいな。

つーか、厳格な身分制度に支配された武家社会な江戸時代においてですね、突然このような人権派市民団体みたいなセリフを吐かれても困るわけですよ。

日本国憲法制定後にようやく形になってきた概念ですからね、人は全て平等であるとか、権利を有するとか。

なんだかもうこの際、雪代巴を主人公にして、非暴力を旗印とした架空の倒幕闘争を描いたほうが面白くなるじゃねえか、みたいな。

キャラクターの内面がね、あまりに時代とそぐわなすぎなんですよね。

一応、体裁としてはラブロマンスで、そこに隠されていた秘密や思惑が絡んでくる、ってのが本作の見どころなんですけど、私は早い段階でなぜこの二人が惹かれ合うのかさっぱり理解できなかったんで、正直終盤は流し見でございました。

それと、剣心の頬にあるバッテン傷の由来なんですけどね、一つだけ言っておこう、頬のバッテン傷は腕白坊主やガキ大将を象徴する漫画の記号である、と。

ちばてつや先生の「ハリスの風」を知らんのか、と。

世の中にはシリアスに演出できるものと、そうでないものがあってですね。

それぐらい気づいてくれよ、と。

あとはこれだけの所業に及んで罪を重ねておきながら、逆刃刀などという珍妙な武器を作り出してまで剣術にこだわる剣心の未練がましさを本作において再認識し、うんざりした、ってのが本音でしょうか。

普通なら仏門に帰依するとか、土と共に生きるとか、刀を捨てるのがまとな感覚だと思うんですね。

人を救うのにも刀がなきゃできんのか、って話だし、戦わねば生きて行きないなら、それは贖罪ではなく因業と呼ばれるものであってね。

時代劇映画としてのテクニックというか、体裁は細部にこだわって整えられてる、と思います。

冒頭で書いたように、すごく気合入ってるのは疑うべくもない。

でもね、やっぱりシナリオがだめだ。

もうこれは一作目から共通して言えることだけど、漫画のノリをそのまま映画に持ち込んでなんとかなるのは高速チャンバラアクションという前人未到な見せ場があったからこそであって、それをドラマ重視に方向転換したところで「立ち位置のおかしさ」が急に変わるものではないし、従来のファン以外にアピールできるものは限りなく少ない、というのが結論ですかね。

やろうとしてることの方向性(スタイル?)は好きなんですけどね、中途半端な学生運動の内ゲバみたいになっちゃってる時点で時代劇としては失格、といったところでしょうか。

全巻セット。最初の方だけ少し読んだことがある。

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