ニューオーダー

メキシコ/フランス 2020
監督、脚本 ミシェル・フランコ

軍事政権樹立を目論む軍部のクーデターに巻き込まれて、予期せぬ状況に追い込まれる富豪の娘を描いた混乱と暴動のドラマ。

メキシコを舞台に起こりうる未来を描いた風ですが、格差が広がる一方の世界において、たとえ日本といえども例外とは言えない・・・と思える怖さがあったのは確かですね。

序盤、華やかな結婚パーティーの場面から一歩敷地外に出ると、街はデモ隊によって荒らされまくっており、軍があちこちで道路を封鎖してた、ってのが結構な違和感で。

街がこんな状態なのにのんびり結婚パーティーやってやがるのかこいつらは?と呆れた、というのもあるんですが、いや、それこそが金持ちの余裕ってやつなのかもしれんなあ、と変に納得したり。

国が戒厳令発布してひっくり返ろうが、金ならうなるほどあるし権力者とも知り合いだからなんとかなる、とでも思ってるんだろうなあ、そりゃ格差は是正されんわ、とつくづく実感。

街が混乱してるのに自分たちは気にすることなく享楽的、という強烈なギャップを感じさせる絵面を最初にもってきただけでも監督は優秀、と思いましたね。

もう全部言い表してますし、冒頭30分ほどで。

その後の令嬢の不運は、ま、さもありなん、って感じ。

全然危機感ないんですよ主人公、なのに親切心だけは人並み以上に持ち合わせていて。

そりゃひどい目にもあうわ、と。

はっきり言って相当気分の悪い展開が後半は続くんですが、デトロイト(2017)や1984(1984)を引き合いに出すまでもなく、混乱時における人の豹変ぶり、愚行のとどまることのなさは決して今に始まったことでもなくて。

これだけ毎日映画みてるとね、さすがにそれぐらいはよく知ってるつもりだし、改めて再確認するのもしんどいわけですよ。

見てみるまではわからん、ってのが辛いところ。

ま、あまりこういう映画を見たことがない人はしっかり直視すべきかもしれませんが。

ただね、技術論?的な面からいうなら、監督はもっと主人公を追い込むべきだったと思いますね。

そこまでやるか?と偏執的なものを感じさせるぐらい、ボロボロにすべきだったと思います。

金持ちをひどい目に合わせてやれ!ということではなくて、割と頭の中がお花畑なお嬢さんが性格変わってしまうほど追い込まれてこそ、人権や平和の尊さがかえって伝わってくるんであって。

状況描写だけで終わらせてて、主人公の心境とか全く掘り下げないんですよね。

安いホラー映画じゃないんだから苦痛にゆがむ女の表情や、悲鳴だけ映してても仕方がない。

席を立つ観客が居た、ぐらいの残虐ぶりを叩きつけてこそ本気も感じられるってもんで。

どこかダイジェスト風なところがあるんです。

なんでそんなに急いでまとめる?みたいな。

思い出すのも嫌、ぐらいでちょうどいいと思うんですよね、社会に警鐘を鳴らすつもりならね(私は見ないけど、これまで見すぎたから)。

終盤の、冤罪が冤罪だとも認識されない展開や、結局何も変わらんのだろうな、と思える苦々しい顛末は、あのシーンが伏線になってたのか!と驚くサスペンスフルな醍醐味もあって悪くはなかったんですが、終わってみればどこか小品な印象も受ける、そんな一作でしたね。

結局、お花畑なお嬢さんがお花畑なままでいられる世界が平和ってことなんだろうな、と思ったりしました。

格差の問題は横たわったままですけどね。

どうしたもんですかね、ほんとに。

タイトルとURLをコピーしました