カナダ/イギリス 2020
監督、脚本 ブランドン・クローネンバーグ
特殊な機器を介して他者の意識に潜入し操ることで、ビジネスとしての「殺し」を請け負う工作員の女を描いたSFクリミナルサスペンス。
核となるアイディアそのものはさほど目新しくもないんですが、薄暗く陰鬱とした映像と登場人物たちのテンションの低さ、ゆったりとした進行がヨーロッパの映画のような質感を醸してます。
というかこれはやっぱり親父であるデヴィット・クローネンバーグの血脈というべきなんでしょうかね。
気味の悪い内臓感覚な小道具とかは登場しないんですけど、どこか似てるな、と感じさせるものがある。
私はスキャナーズ(1981)や戦慄の絆(1988)を思い出した。
前作アンチヴァイラル(2013)を見てないんで断定はできないですけど。
なので題材の割には派手な立ち回りやアクションに重点をおいてなくて、どこか内省的というか心理劇っぽい。
血飛沫は派手に撒き散らすんですけどね、そこも親父譲りってか。
およそ二世が、偉大なる父と同じ分野で活躍して高い評価を受けることって殆どないと思うんですけど、ことブランドンに関してのみ言うなら、想像よりちゃんとしてる、とは思いました。
いや、コネかなんかで映画業界に入ってきたのかな?と思ってたもんだからさ。
ちゃんと映像の勉強した人の作品だわ、これは、と感心。
感心する、ってのも変な話なんですけどね。
でまあ、課題はやっぱり親父の影響下からの脱却でしょうね。
悪くはないし、平均点はクリアしてると思うんですが、親父ならこれぐらいのことは普通にやる、と私は思うんですよ。
さらにもっと薄気味悪いなにかを加味してくるんじゃないか、という気すらする。
そこに二世の不幸があって、似たようなことをやるとどうしても比較される、ってのは避けられないでしょうしね。
今後を考えるなら、親父とは全く違うことをやったほうがよかったと思いますね。
CGは使わないとか、そんなどうでもいいことにこだわってる場合じゃない。
深読みすれば幾通りもの解釈ができそうな筋立てや、観客を微妙に突き放そうとする(考えさせようとする)エンディングは嫌いではないですが、親父が開墾した庭で遊んでても仕方ないと思うんで。
厳しいことを言うようですけど。
デヴィッドの遺伝子を受け継いだ映像作家といえば聞こえはいいですが、世界に名だたる異能の監督と近しい映画作りをやって許されるのは息子だからであって、これが他人なら比較以前にパクリよばわりですよ、ぶっちゃけた話。
物語に隠されたテーマが見かけとは全く違ったとしてもね。
さて今後、ブランドンはどういう方向に進むのか、注視したいと思います。
親父っぽい映画はこれを最後にして、次の場所に駒を進めることを期待したいですね。