アメリカ 2020
監督、脚本 マイケル・クリストファー
ホテルの受付として働く、発達障害(アスペルガー症候群)を抱える青年が、偶然にも殺人事件を目撃してしまったことから、思わぬトラブルに巻き込まれてしまう羽目になるサスペンス。
私が以前、酷評したザ・コンサルタント(2016)に比べれば、遥かに自閉症の実態、本人を取り巻く社会、家庭をリアルに描いてる、とは思います。
発達障害をネタにしてエンターティメントやらかしていいのか?みたいな部分で賛否両論はあるんでしょうけど、この映画をきっかけとして病気を認知した、って人もきっと中にはいると思うんで。
病気だから必ず生真面目に描かなきゃならない、ってことはないと思うんです。
腫れ物に触るように扱うよりは、題材として理解してもらったほうがいい、と考える当事者、関係者の方々もきっとおられるはずでしょうし。
そういう意味では本作、突飛になりすぎることなく、誇張するわけでもなく、一人の青年として生身の主人公バートを、等身大で描写していたように思います。
私が想像していた以上に、・・・踏み込んできたな、と感じたのは、バートが違法にホテルの各部屋を盗撮していた、とする作劇。
そこには、障害者だからといって必ずしも善人ではないし、かといって我々が理解できないほどの変人、奇人でもない、といったごく当たり前の主張がある。
これ、なかなか理解が及ばない部分だと思うんですよね。
やっぱり人って、見かけや挙動で他人を判断してしまいがちですから。
彼を盗撮に走らせた理由はいったいなんなのか?監督は劇中でちゃんと語りかけてます。
盗撮癖がある、ということじゃなくて、我々受け入れる側の問題を浮き彫りにしてるんですよね。
もちろん善悪の問題はあるんですけど、そういうことじゃなくて。
ああ、切ないなあ、と私なんかは思ったり。
また主演のタイ・シェリダンが迫真の演技で。
特に大きく話題になってませんが、相当研究してると思いますね。
それゆえ、物語の展開が眉唾っぽくならない。
いやいや、そんな風に都合よく事は運ばないだろう、と一瞬思ったりもするんですけど、演技に嘘がないし、過剰な演出もないんで、全部が腑に落ちてしまう。
サスペンスなのは間違いないんですけどね、私はなんだかもう、このままなんとか幸せになってくれやしないものか、と途中で見当違いな願望を抱いたりもした。
ま、フォレスト・ガンプ(1995)じゃねえんだから、そうは問屋がおろさないわけですけども。
はっきり言って、オチは相当にやるせないです。
希望を抱かせるだけ抱かせておいて、こんな風に突き落とすのかよ、とあたしゃ暗澹たる気分になった。
それでいて、でもきっとこれが現実なんだろうなあ・・と思わせるところにこの映画の意地悪さがある。
できうることならその後の顛末を描いてほしかったところなんですけど、さすがにそれをやってしまうと、もう救いがなさすぎてどうしようもなくなるか。
エンタメに見せかけた意欲作だと思いますね。
最後に、何らかの答えを導き出すことができていたら傑作!と絶賛することもやぶさかではなかったんですが、こういう試み自体を本来は評価すべきなのかもしれません。