2007年初出 吉田秋生
小学館フラワーコミックス 1~2巻(全9巻)

ああ、私の知ってる吉田秋生が帰ってきた、と思いましたね。
BANANA FISHで作者とはお別れをして、幾星霜。
もうほんとにね、YASHA-夜叉-とかどうでもよかったんです。
流し読みをしただけなんで断言はできないんですけど、国家的陰謀が渦巻くクライム・アクションとか、なぜこの人の筆で読まねばならんのか、とずっと思ってて。
そんなの達者にやる人が他にいっぱい居るし、あえてそこに殴り込んでいかねばならない必然性も私には感じられなくて。
あなたにはあなたにしか出来ないことがあるでしょう?と。
そりゃね、口さがない人たちは、結局元に戻ったとか、自己模倣とか言うかもしれませんけどね、たとえ焼き直しでしかない手慣れた手法に過ぎなくても、他の誰ひとりとしてそれが出来ない以上、誇って良い、と私は思うんですよね。
それが証拠に作者が非日常、非現実なサスペンスに浮気をしていた数十年、私の知る限りでは少女漫画界に追随する描き手は一切見当たらなかった。
真似たくとも真似られなかった、というか。
じゃあ本家の出番でしょう?って話で。
本作、言うなれば、少しばかり特殊な環境のホームドラマにすぎないんですけどね、それを全くのブランクを感じさせないばかりか、ここまでのユーモアと叙情でもって読ませる内容に仕上げるんだから、ほんとにもうこの人は遠回りをした、と思う。
天賦の才、って言葉が脳裏をよぎったりしましたね。
ようやくカリフォルニア物語の次が読めるのか、って感じです。
いや、河よりも長くゆるやかにの次か。
吉田秋生という稀代のヒットメーカーの解釈は人それぞれでしょうし、描くもの全部売れてるんだからぐちゃぐちゃ文句言うな、って言われそうですが、私はこのままさりげない日常を独自の感性で彩色する名手として、さらに円熟の極みへと達してほしい、と願うばかりですね。
おかえり、って言いたくなる一作。