初出 2009~2014 伊藤潤二
朝日新聞出版社NEMUKIコミックス

<収録短編>
布団
木造の怪
富夫・赤いハイネック
緩やかな別れ
解剖ちゃん
黒い鳥
七癖曲美
耳擦りする女
新・闇の声潰談以来、8年ぶりとなるホラー短編集。
才能というのは枯渇していくものなのだ、という誰もが認めたくはない現実をそのままさらけ出してしまったかのような一冊だと思います。
ホラーの体裁はちゃんと整えられてます。
でもこれは伊藤潤二じゃない。
奇想が見たこともない悪夢を現出させるマジックはここにはありません。
読了して私が思ったのは、悲しいかな、こんなの有象無象の売れないホラー漫画家でも描けるじゃないか・・でした。
かろうじて悪くない、と思ったのは「緩やかな別れ」と「黒い鳥」なんですが、前者はどう考えても作者の路線じゃないし、後者は諸星大二郎が描きそうな感じなんですよね。
共通して言えるのは、作者自身が自分の持ち味を忘れてしまったかのような内容でしか水準以上の出来をキープできてない、ってこと。
これ、なにか新しいことをしようとしてるんじゃなくて、自分でわからなくなってる、ってのが正解だと思います。
ホラーの天才の終焉を告げる短編集でしょうね。
もし彼が短編に特化した漫画家ではなかったら・・・奇抜なアイディアを最大の武器とする描き手じゃなかったら・・・等々、名残惜しさはとめどなく夢想を膨らませますが、おそらくもう復活はないでしょう。
これからどこへ行くのか、伊藤潤二。
熱烈なファンとしては最後まで見届けるつもりではあります。