日本 2023
監督、脚本 萩上直子
東日本大震災直後の関東を物語の起点とした、平凡な主婦の暮らしぶりを描くホームドラマ。
すごく簡単に言ってしまうなら、ああ、自分はもっと自由になっていいんだ・・と主人公依子が気づくまでのプロセスをじっくり描いた作品、といったところでしょうか。
なんせ主人公、旦那が寝たきりの義父を残してある日突然蒸発してしまったにもかかわらず、きちんと最後まで義父の面倒を見て葬儀まで出してあげるような真面目な人物でして。
ただ、そんな自分自身をどこか不可解に思っていることも確かで。
不平不満をどう発散するべきかわからず、新興宗教を熱心に信心していたりする。
そんな折、失踪していた夫が戻ってくる。
信心ではどうにもならぬほど心乱れる依子。
さて、彼女はどうするのか?がストーリーの骨子なんですけど、まあ、ぶっちゃけた話、全てにおいて判断が遅すぎるわ!と私なんかは思ったりする。
まず、旦那が出ていった時点で、赤の他人である義父の面倒を見る必要なんざさらさらないわけで。
とっとと離婚して出ていきゃいいじゃん、って。
失踪宣告の手配だけとりあえずやっといてさ。
100歩譲って義父を看取るのは最後の人情だったとしてもですよ、そのあとのこのこ帰ってきた旦那を家に入れてやるとか、もう考えられんわけですよ。
生き方がね、夫に依存することで衣食住を確保してもらい、その代わりにすべての理不尽を耐え忍んだ昭和の専業主婦のようなんですよね。
震災直後ということは10年ほど昔の話だから、少なくとも平成末期、いや、こうも物言わず主張せぬ女性、まだ日本に生息してるか?と私なんか思ってしまう。
田舎で代々農業やってる大家族の嫁ならいざしらず、今どきサラリーマンの嫁でここまで愚直?なことってまずないのでは?と。
ちょっとネットを漁ればいくらでも相談する場所や法律知識を得ることが出来ますからね。
まるで外界からシャットアウトされているかのようなんですよね、依子。
そこで考えられるのが、監督があえてそういう人物を設定したという可能性。
家庭内における主婦のままならなさ、性差の不平等を浮き彫りにするために、あえて主人公を虐げられた女風にキャラ付けしたのではないか?と。
むしろ今は男の方が莫大な慰謝料や、親権、養育費に苦しめられてる気がするんですけどね、どうなんですかね、相変わらず女は弱い立場のままなんでしょうかね、家庭において。
私の知り合いの家庭はほとんどが共働きで、旦那は嫁さんに財布を握られてるケースが大半だから、この映画を見てると自分たちの親世代ぐらいの夫婦(いわゆる団塊の世代)をイメージしちゃうんですよね、私は。
なのでどこか現実味を感じられない。
器だけが現代的で出ている人たちは一世代前、みたいな。
まあ、年収1000万以上あるような人たちはまた違うのかもしれませんけどね、同じ専業主婦でも。
どちらにせよ、監督はいろんな呪縛で身動き取れなくなってる女性たちを応援というか、解放したかったみたいです。
私は男性だけど、そこに共感できなくはない。
ちなみに、あ、上手だな、と思ったのは、壊れた人たちには壊れた人たちなりの是があり、非があるとしていた点。
それが物語を一本道にしてない。
構造的には一本道でもいいんだけど(その方がカタルシスがあったかもしれないけど)、あえて考える余白を残してるのが大人を退屈させないんですよね。
エンディングは意味なく圧巻でしたね。
本当にすべてが吹っ切れたのかどうか不透明だけど、最後に依子をああいう形で演出する監督のセンスに脱帽。
地味なようで不思議に見応えのある一作でした。
スカッとするわけでも、明確な答えが用意されてるわけでもないんですけどね、じわじわと不穏さが沁みてくる作品でしたね。
一定の年齢以上の女性は共感する部分が多いんじゃないでしょうか。
あと中盤の、まさに「波紋」を象徴する心象風景の描写は創造性に欠けて陳腐だったんでやめておいたほうが良かったのでは・・と少し思いました。
筒井真理子が名演だったんで余計に。