2023 日本
監督 三池崇史
原作 倉井眉介
なんだかんだ言ってやっぱり亀梨君がすべて
連続殺人事件のターゲットにされた弁護士を描くサスペンス。
独特だったのは、一見、暴力には馴染みがないと思われる弁護士の正体が、殺人に禁忌を持たぬ真正のサイコパス野郎だった、という設定。
つまりはこの作品、序盤においてはシリアルキラーVSサイコパスの様相を呈しているんですね。
なんだかハリウッドの抱合せ商法みたいな手口だなあ、と思ったり。
フレディ(エルム街の悪夢)VSジェイソン(13日の金曜日)とかなかったっけ?その手の映画はスルーしてるんで記憶が定かじゃないけれど。
ただですね、本作の場合、主人公や犯人がフレディやジェイソンのようにキャラが立ってて認知度が高いわけではないんで、悪と悪が激突するアンチヒーローものみたいな展開にはどうしたってならなくて。
むしろ物語は、弁護士の育ちに注目し、なにゆえ彼がサイコパス化してしまったのか?に焦点を当てていく。
で、実はそこにこそ事件の謎を解く鍵があった、としたシナリオ進行にはなかなか唸らされるものがあって、さすが原作がこのミスで大賞取ってるだけはあるな、と感心しましたね。
中盤以降の展開なんてね、もうミステリを逸脱して脳が抱える問題とパーソナリティのストーリーになってたりしてますもん。
いやいやアルジャーノンに花束をじゃねえかよ、これ!と私は思ったりした(ネタバレになってないと思うんだけど、ネタバレだと感じる人がいたらごめんなさい)。
惜しむらくは、弁護士の抱える問題を、前頭葉に対する外科手術(脳チップ)が原因としたアイディア。
これ、結構際どいと思うんですよね、私は。
脳チップ自体は1960年代から研究されてたらしいんですけど、いくら専門家で技術や知識があるとはいえ、個人で施術できるような代物ではない、と思うんですよ。
物語では個人が施術したことになってるんですよね。
いやね、不特定多数の子どもたちを誘拐して片っ端から施術するとか、そんなの専門家であるだけでなく、天才的誘拐魔でもなけりゃあ到底無理な話ですから。
術後の子どもたちをバレないように大勢匿っておく用心深さも必要となってきますし。
そんな多方面に飛び抜けた人物がこっそりと在野にいるか?って。
組織的だったり国家が絡んでないと絶対に不可能だろう、と思うんですよ。
なので謎が明かされていくにつれて、だんだん信憑性というか、もっともらしさが薄れていくんですよね。
なぜ三池崇史は脳チップを埋め込んだのは昭和のカルト宗教団体だった!みたいなふうに改変しなかったのかなあ、と思いますね。
それだけで全然現実味が違ってくるのになあ、って。
あとは亀梨和也の演技かな。
亀梨君は事故物件恐い間取り(2020)でしか見たことがないんで、断言できないんですけど、この人「何をやってもキムタク」と同じじゃねえかな、って。
ずっと同じトーンというか、始終かっこつけてるだけ、というか。
大怪我で死にかけていてすら全く自分をくずさないな、この人は、と思った。
そういう役者(アイドル?)に本作のような主人公の弁護士役はあまりに難しすぎる、と思うんです。
詳しくは書きませんけど、同じ人物でありながら、突然の内面の変化を周りに隠しながらいつもどおりに振る舞わないといけない役なんですよね、この役って。
熟達したベテランの役者でも難易度高い役柄ですよ、はっきり言って。
私には、見事演じきれている、とは到底思えなかった。
なので思った以上に物語の屋台骨がしっかりしてて見ごたえがあっても、うーん、これが亀梨君じゃなければどうだったんだろうなあ、とつい思ってしまう。
この物語って、実はすごくやるせない話で、ある意味『作られた異形の哀しみ』を切々と訴えている、と言ってもいいと思うんですけど、それにしちゃあ驚くほど余韻が残らなくてね。
さて、戦犯は誰なのか。
三池監督?うーん、わからんなあ。
原作に力があるんで最後まで見れますが、映像としてどうか?というと、なにかが届いてない気がしますね。
ねじレート 55/100