水を抱く女

ドイツ/フランス 2020
監督、脚本 クリスティアン・ペッツォルト

水の精霊ウンディーネの物語を、現代ベルリンに蘇らせたビターなファンタジー。

はて・・・・ウンディーネって何?・・・えっと、ハリポタに居た?などと、うつろな記憶をまさぐってる諸兄よ、安心したまえ、私も同じだ。

私なんざ女神転生(アトラス:RPG)に居たよね、確か、とにっこり微笑み返した始末。

当たらずとも遠からじ、と言いたいところだが、この場合、全く違う、と言わざるを得ないでしょうなあ。

サクッと調べてみたところによると、ドイツの民話と言うか、小説に登場する人外の存在みたいなんですけど、人間の男性との悲恋物語が多く伝えられているとか、いないとか(どっちだ)。

オンディーヌ、アンダイン、オンディーナと名前を変えて、広くヨーロッパでは知られた存在みたいですね。

ロシアの水霊ルサールカなんかも似たような存在なんじゃないか?と思うんですけど、違うんでしょうかね?わからん。

で、このウンディーネなんですが、地上で暮らすためにはさまざまな制約があって。

元々魂のない存在らしいんですけど、なぜか人間の男性と結婚すると魂を得るらしく、精霊のくせに現世志向なのはそのあたりに要因がありそうなんですが、

1 水の側で夫に罵倒されると水に帰ってしまう
2 夫が不倫するとウンディーネは夫を殺さなければならない
3 水に帰ってしまうと再びウンディーネは魂を失う

と、なぜか定められてまして。

なんかよくわからんがシャイな精霊だな、と私は思ったりするんですけど(2は怖いけど)細部にこだわらなければ広い意味でアンデルセンの人魚姫とか、あのあたりと近しいんじゃないかと思うんです。

水のものって、どうしても類似してしまうのかもしれませんね。

これが日本なら、沼から巨大な龍が飛び立って天に帰りそうですけどね。

で、それら前情報をちゃんと把握しておかないと、この映画、本来なら伝わるものも伝わってこない有様となります。

監督は物語を進行する上で、丁寧に「ウンディーネの制約」の韻を踏んでいきます。

あ、なるほど、だからヒロインはあんな行動をとった(セリフを吐いた)のか、と逐次納得。

非常に興味深いのは、ではもしウンディーネ自身が不貞の疑惑をかけられたらどうなるのか?を描いている点でしょうね。

少しスウィートすぎるかな、と思わなくもないんですが「水」を介して「魂」のやり取りをすることを考えに入れるなら、中盤の展開もなるほど、と思わなくはありません。

唸らされたのは終盤の流れ。

制約に従うなら、ウンディーネは「あること」を男に対して実行しなくてはならないはずなんですが、物語は別の帰結を迎えるんですね。

ああ、これこそがウンディーネを現代に蘇らせようとした理由だったんだな、と私なんかは思った。

小さな誤解と、想定外の不運が招く悲恋を綴った作品ですが、痛ましくもどこか美しさのある秀作だ、と感じました。

さすがはあの日のように抱きしめて(2014)のペッツォルトだ、と感心。

あの日のように抱きしめてもそうでしたが、男性監督の目線とは思えない繊細さがこの人の映画にはありますね。

こういう作品こそをロマンチックだと言うべきなのでは、と逆説的に思ったりもしました。

完全に余談ですが、山岸凉子の短編にウンディーネってのが、あったような・・・。

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