日本 2020
監督 下村勇二
脚本 灯敦生
伝説の剣豪、宮本武蔵の吉岡一門との戦いを描いた剣戟アクション映画。
うーん、今あえて宮本武蔵と吉岡家の戦いを映像化するって、どうなんだ?と正直思わなくもないんですよ。
あまりに有名なのは言うに及ばず、それこそ映像だけでなく小説や漫画においてすらさんざん使い回されてきた手垢な題材ですし。
なにか新たな切り口や解釈が残されているとは到底思えない。
いったいどうするつもりなんだ?となにげに手にとってみたら、なんと77分ワンカットでひたすらチャンバラシーンだけで最後まで突っ走ります、ときた。
・・・・なるほど、そういう手があったか、と。
物語を編むのではなく、アクションのみに注力してドキュメントタッチな臨場感だけで勝負する、というのもアリといえばアリだ。
一歩間違えたらバカ映画になりそうですけど、この手の潔さは私、嫌いじゃない。
で、肝心の内容なんですが、ほんとに最後までひたすらチャンバラでした。
ちょっと正気を疑うレベルで徹底して肉弾戦。
シナリオなんざ関係ねえんだよ、とばかり、次から次へと吉岡一門、なで斬り状態。
まさか本当に、こうも脇目もふらず、切り捨て御免が最後まで続くとは思わなかった。
偉業といえば偉業でしょうね。
香港のカンフースターだって77分ノーカットでアクションやったりしないですよ。
そんな無茶苦茶を強いた日にゃあ、訴訟沙汰にだって発展しかねない。
監督は頭おかしいのか?とあれこれ調べてみたら、どうやら2012年に撮影されたものの、公開されなかった狂武蔵の原型とも言える作品があって、それを完成させるべくクラウドファンディングをつのり、主演の坂口拓が主導して完成にこぎつけたのが本作であるとか。
なるほど、役者が先に立っていたか、と。
私は坂口拓という役者さんをよく知らないんですが、アクションに関しては弟子を持つほどの人物らしく、独自の格闘理論もお持ちなようで。
経歴見てたらVERSUS(2001)に主演してた。
マジか!当時「すげえ!」と興奮しまくった映画じゃんか!と慌てて記憶をまさぐったことはさておき。
どうあれ、45歳でこんな無謀なことをやり遂げた、というだけで感嘆するほかありません。
そこは素直に脱帽です。
ただね、すごい、とは思うものの、映像作品として見るなら難点はいくつかあって。
ワンカットの凄みは確かにありますよ、でも人間って、やっぱり似たような場面を延々見せつけられると、それがどんなに刺激的であってもだんだん飽きてくるもので。
開始30分ぐらいで退屈さは頂点に。
殺陣の型が単調なのもいただけない。
武蔵の攻撃が面と胴ばっかりなんですよね。
なんだか剣道の試合を見てるような気にもさせられて。
ひたすら上段で突っ込んでくる敵剣士が多すぎるのにも閉口。
斬ってくれ、と言わんばかりじゃねえかよ、と。
やっぱりね、1対多勢となると、不利な剣士の追い詰められた心情として、なるべく省エネで敵を片付けていこう、と考えるものだと思うんです。
小手狙って指落としときゃ、相手は命に関わらず戦闘不能になるわけですから。
なんでそういう小さな工夫ができないんだろうと。
もうただただ消耗戦なんですよね。
百姓一揆か!と。
血糊がモロにCGで、恐ろしく地味なのにもうんざり。
予算の問題もあったんでしょうけど、ホラーゲームを下回るレベルでとってつけたような感じなんですよ。
武蔵がほとんど返り血をあびてない、刀が人の油で切れなくなるシーンが全く無いのも駄目。
木刀でチャンバラやってんじゃねえんだから。
ワンカット77分の衝撃とは裏腹に、日本刀片手の殺し合いがあまりに現実味に欠けてるんですよね。
多分「見せる」演出をしようと思ったらできたと思うんです。
ラスト数分のシークエンスなんて、るろうに剣心(2012)にも迫ろうかという勢いでソリッドかつ流麗でしたから。
なにかが仕上がりの邪魔しちゃったんでしょうね。
それが77分という失敗が許されない長丁場のせいなのか、体力の問題なのかはわかりません。
すごいことをやらかしてるのは十分わかるですけど、熱量が広い層に伝わるまでには至らなかった残念な作品、というのが私の結論。
坂口拓という役者のとんでもなさはしっかり記憶に残ったんで、なにか別の作品でまたお会いしたいと思う次第。
なんだろ、もったいない、というべきなのかもしれませんね。
飽くなき挑戦心には賛辞を贈りたいんですけどね。
そういえば二刀流はどうした?ほとんど出てこなかったけど。
<追記>
どうやら映像の大半は9年前に撮られたもののようです。
うーん、だとすると話が違ってくるなあ。